
京町家を改修し呉服屋のショールーム兼写真スタジオへとリノベーションした。 クライアントからは呉服屋も伝統を守るだけでは難しく集客に繋がるような面白いものにしたいと言う様な話があった。 それに対し既存の外壁を取り除き、内外の境界線を横断する様なガラス曲面の配置を中心に応えようと考えた。 古い町家とガラスの曲面、新旧のコントラストが目を引くのは当たり前として、それだけでは無いユーモアや工夫のある美しさを加えていきたいと思いながらデザインをしていった。 当初あったガラス曲面案は予算的に非現実的な事が分かり、小幅なガラス板を連ねた多面体に変更した。 大きなガラスで透明に見せようとするのとは違うガラスの多面体には着物の煌びやかさに繋がるような魅力があり、等間隔で入る垂直線はガラス壁を町家の意匠と繋いでくれる感覚もあり、コストと意匠両面で積極的に多面体案へと変更していった。 通りに接していた玄関扉を取り払い室内だった部分へアプローチを引き込み半屋外とし来店時の体験に奥行きを持たせた。 様々な使い勝手に対応できる様に表通りに直接面する大きな出入口も欲しいと言うことで、多面体をそのままドアにも当てはめ、への字に折れたガラスドアをデザインした。あるいはもう一箇所の片開きガラスドアも多面体ガラス(1枚約W400)と見た目の幅を揃える為にガラスを中央で割り目地の様に隙間を開けた。見慣れたフロアヒンジのガラスドアがカクリと曲がったり真中に隙間があるだけで新鮮に見える。知っているものを少し操作する事で新鮮に見せる事はここのところずっと興味があるアプローチで、ここではドアでそれが出来たのではないかと思う。 古い町家の中で新しい空間が際立ち、それによって町家自体が改めて魅力的に見えるものになっていれば嬉しい。 補足 ・今回デザインしたのは通りに面した部分のみだが、通りから、スタジオ、既存の和室を抜けた先に見える庭への見通しの美しさは当初から意識し、その抜けの中に被写体に入ってもらうのは写真館として有効なカットになるのではと考えガラスドアの配置等を進めた。 ・足固め(柱同士を低い位置で繋ぐ横架材)がガラス壁を貫いている。あるいはスタジオ内にも既存束石が残されている。残さざるを得なかった古い部材が新しい材とぶつかって結果的に魅力になっているのではと思う。 ・アプローチの飛び石は一般的にはノミで割られた荒々しい表面を持つ分厚い塊を据える事が多く当初はその様にデザインしていたが、クライアントが商品を持って頻繁に往来するので転ばぬ様に石の面を洗い出し面と揃えて欲しいと話があった。そこでジェットバーナー仕上の薄い600角の既製の石をフリーハンドな形にカットし埋める事にした。クライアントの要望をきっかけにすっきりとした現代的な表現になったのではと思う。 ・空っぽに近い写真スタジオとしての使い方と着物のショールームとしての使い方両方を想定している。また帯や反物をダイナミックに展示できるようにする事も求められ、布を挟み込み天井から吊る機構をデザインした。 ・ファサード2F部は室外機を移設し窓周りを格子で覆う事でスッキリさせたくらいで大したことはして無いが主張の強いガラスの多面体と良いバランスが取れたのではと感じている。 ・オークを削り出したドアの把手。些細なものだがこの場所と来訪者との出会いが印象的なものになればとデザインした。