借景と浮遊する建築 京都・嵐山。国の史跡、名勝にも指定されている、南北に流れる桂川に架かる渡月橋と竹林があまりにも有名なエリア。 観光客のにぎわいを見せる通りからほんの少し離れた、料亭が集まる桂川沿いの一角にひっそりとたたずむ平屋東屋を「%ARABICA」2号店としてリノベーションするプロジェクトである。 1号店の東山と同様に、コーヒーのロースターショップでありながら、エスプレッソマシーン、生豆のストックヤード、焙煎機のショールームの機能がもとめられた。 目の前に広がる嵐山の借景を得る。日本建築の特徴である床と屋根を目指す。障子や襖を開け閉めすることで内部に外部を取り込み、四季折々を感じること。この土地と、既存の建物を眺めながらそんなことを考えた。 そのものが構造である大きなガラス面の開放的なファサードは、外部から見られる事を意識すると共に、店内からの景観を際立たせる為に採用した。 大きくはり延ばした一枚庇は、建築の浮遊感を印象付けつつ、景色をパノラミックに切り取るフレームでもある。 北側一面に配置したコーヒービーンズセラーは、 世界各地より厳選した豆の温度湿度を管理するとともに増改築の続いた築40数年の建築を補強する。 基礎を高く持ち上げ、ひな壇形状の店内アプローチとすることで、店内から見える景色が通行人によって遮られないよう確保するとともに、大雨による浸水を避ける効果もある。基礎の一部は張り延ばし、ベンチとしての機能を持たせた。バリスタに最も気持ちのよい場所でコーヒーを煎れてほしいとの願いから、最高のビューポイントにカウンターを配置した。 人造大理石研ぎ出しの白いカウンターは、ガラスを隔て外に出ると基礎の腰上となり、建物を半周して半屋外のテーブル席へとつながる。 一杯をつくる所作が渡月橋の借景と重なり、世界唯一の忘れがたい体験となる事をイメージした。