
徳島県那賀郡の築150年を経た古民家の改修である。敷地は雄大な山々に囲まれ、名産である木頭柚の畑が続く自然豊かな集落にある。施主は周辺の山林の多くを所有する由緒ある林業家で、母屋の歴史的な価値を残しながら次世代に引き継いで長く使ってもらえるようにしつつ、現代の生活に即した改修がしたいという依頼であった。改修前の母屋は入母屋造りの瓦葺屋根であったが、躯体に残された痕跡や施主家族へのヒアリングから、建築当初は寄棟造りの茅葺屋根だったことが判明した。そこで、集落の中でも大きく目立つ存在として風景の一端を担っていたであろう、かつての屋根の佇まいを再現しつつも、現代的な構法や要素を用いて新たに作り直すことで家の格式を蘇らせることにした。新しい屋根架構には地産杉9m材を90mm×270mm@455mmで登り梁として採用し、既存小屋梁面及び下屋部分によるスラストの抑制効果も利用することで、約9m×17mの無柱小屋裏空間を獲得し、施主が代々受け継いできた林業道具を展示するギャラリーとした。また屋根面には360°全周スリットを入れることでギャラリー及び吹き抜けの土間・ホールへの採光を確保した。屋根葺材は山の緑の中でも映えるように白いガルバリウム鋼板とし、一文字葺で仕上げた。平面構成はオモテゲンカンから続く建物南側を保存・再生ゾーン、建物北側をコンパクトな暮らしに対応した居住スペースとしてそれぞれ整理し、それらを吹き抜けの土間・ホールが関係付けている。過去の構成を足掛かりとし、現代的な要素を用いて内外を新しい風景として再構築することで、集落全体の歴史・風景への誇りを未来へと紡いでいくことを目指した。