
2020年で創業70周年を迎えた製薬会社である全薬工業株式会社の研究開発拠点の移転新築計画である。 昨今の研究内容は細分化・専門化しながらも、オープンラボのような外部企業との協働やベンチャー企業との協同、一部の研究作業の外注化など研究環境は多様化している。実験室にはこれまで以上の高い性能と環境が要求され、研究所としては外部との繋がりや研究者同士の繋がりが極めて重要になってきている。 そこで本計画では「敷地全体を閉じる」という既成のビルディングタイプ形式から、「ラボ部分を閉じ、研究所全体としては開かれている」という形式へ変換することを試みた。「開かれた」という建築テーマとしてはありきたりな言葉ではあるが、研究所というビルディングタイプにおいては、これは大きな意味をもつと考えた。 構成としては、オフィスゾーン・ラボゾーン・設備シャフトゾーンを平面的に明快に分け、細長い建物に対して3枚下ろしのように細長く3つの用途をゾーニングした。これにより、奥行きが浅く外部環境に近いオフィスゾーン、設備シャフトが近くフレキシビリティの高いラボゾーンを獲得している。 研究分野によって求められる気密性・遮音性・清浄度・温度安定性が異なる中で保守性・更新性といった将来のフレキシビリティにも配慮して、ラボゾーンは実験台寸法から建物スパンを決定し研究分野毎にスタッキングしていく計画とした。 一方でオフィスゾーンについては、研究分野の分け隔てなく一体の共有空間とし 研究者同士のコミュニケーションがとりやすい計画とした。京王線沿いの北側にオフィスゾーンを配置することで、眺望や京王線沿いの豊かな景観、安定した北側採光を獲得している。防虫対策として室内に植栽を設置できない代わりに、オ フィスゾーン外周にはバルコニーやテラスを設け植栽を施すことで室内景観を向 上するとともに都市景観と親和性の高い外観イメージとしている。 「開かれた」というテーマの中で、空間として内外を連続させるモチーフとして下面を鏡面状に仕上げた天井アルミルーバーを計画した。空間のスケールに合わせてルーバー断面・ピッチを幅50mm×高さ200mm@320mmに設定、上面・側面を黒色、下面を電解研磨で仕上げることで環境を映し込む面を生み出した。観察者の位置・向きによって外構の植栽、内部空間、都市の喧騒が移り変わっていく。下面を鏡面状の面として徹底して設えるために、像を阻害する障害物を排除することを考えた。ルーバー間に設置される設備の設置高さをルーバー下面より可能な限り上げることをベースとし、さらにダウンライトによるスカラップ・グレアが出ないよう計画した。具体的には、ダウンライトのレンズ・バッフルプレートを操作しルーバー側面にスカラップが落ちない配光曲線を作るとともに、ルーバー側面を0.8mmの山型形状とすることでルーバー側面にダウンライトの光源が映り込まない仕組みとした。