
計画地は、三島市から箱根へと抜ける旧道沿いの高台に造成された分譲地である.設計段階に訪れた団地にはまだ建物もなく、段状に造成されただけの敷地には設計の手がかりとなるものは希薄だった.少なからず環境を平準化してしまう分譲地においては、より広い視野をもって、人の手では変わることのない風土を見い出し取り入れる思考が必要になる.リサーチ範囲を広げて古くからある旧道沿いを歩いてみると、谷のある地形と斜面に拡がる広大な畑、遠くまで連なる山々の美しい風景と共に、谷から吹く心地よい風や、風景に彫りの深い陰影をつくり出している日射しがとても印象的だった. そこで、団地規定による敷地ごとの建物最大範囲から南側隣地の建物ヴォリュームを想定して、谷下から敷地へ抜ける風道を導き出し、その範囲上にLVLを重ね合わせた家型ラーメンフレームによる大きな軒下空間(パブリックリビングスペース)を設けた.そして、敷地に残る高低差を床の段差として取り込みながら、もう一方の1階に水回りと収納室、その2階に屋根裏空間(プライベートリビングスペース兼ベッドルーム)を設け、季節や時間帯、プライバシーなどに応じて居場所を自由に変えることができる谷のような地形を建物内につくり出した.ラーメンフレームの高さは、1、2階のヴォリュームと季節ごとの光の入り方を踏まえ決定した.メインフレームの東側には、南北に抜ける玄関と農作業時にベンチとしても利用できる土間、農機具などの収納スペースを、LVLフレームをかみ合わせることで設けている. 子供たちが土間テラスと大きな軒下をぐるぐると回りながら楽しそうに遊んでいる.大人たちは木陰のテラスで立ち話をし、猫はお気に入りの階段で昼寝をしている.土地固有の環境が風土をつくり出し、暮らす人びとの記憶を育んできたわけだが、谷風の抜けるこの大きな軒下が家族や近隣の人達を大らかに包み込み、かつての縁側や土間のようにこの地の風土と記憶を育み、継承していくことを願っている.