京都の中心地四条河原町から歩いて7分ほど、京町家を改修した、ゆっくり洋酒が飲める場所のプロジェクトとしてデザインしたオーセンティックなBARである。クライアントは、有名店で長年修行されてきた筋金入りのバーテンダーで、初めての対面では非常にストイックな、朗らかではあるけれどまるで寡黙な職人のような印象を受けた。 要望は明確には示されなかったが、店のデザインについてのヒントを探して色々なお店を一緒にめぐりを行った。幾度となく接する中で感じたオーナーバーテンダーであるクライアントの、人への丁寧な態度や、さりげない気遣い、人をもてなす安心できる場所への思想にふれるうちに、目指す空間は、静かで、目を凝らすと味わいが出てくるようなゆったりした落ち着ける空間となっていった。 数件目の候補物件となる今回の看板京町家を訪れ、座敷と対面する中庭の空間を見た時に、醸成してきた、目指している場所を創れると思いこの物件に決めて頂いた。もともとは呉服関係の会社の社屋として使われており、元のオーナーが内装を数寄屋風の和室に設え大事に使われていた。 道側は看板町家に改築されており、タイル仕上げの四角い小さなビルのような風貌であったが、中は真壁造りに聚楽で仕上げられた土壁、竿縁天井、畳、ふすま、床の間、下地窓、庭・・・すでに静かでゆったりとした中に凛とした緊張も感じられる良い雰囲気があったため、この雰囲気を活かしながら、どのように静かに洋酒を振舞う場所へと変えていくかを考えデザインを進めた。 空間構成は、クライアントとともにインスピレーションを得た通り、建物の最深部である庭と対面する二間続き座敷を1室として、バーカウンターを設置した。既存の天井では椅子式の空間には低いので天井を取り、小屋組み、トントン葺きの野地板を現して3m以上の天井高があるゆったりとした空間としている。庭への建具はすべて嵌め殺し開口とし、視覚的に庭と一体となっている。内壁や柱梁、床の間、下地窓などは、照度を落とした店内に合わせ、暗めの古色に塗り直したが、基本的にそのまま利用している。 入り口から客席前のホールまでには長めの玄関動線をつくり、京都の中心地の喧騒から静かな店内へと徐々に変わっていく導入部とした。この部分には、クライアント自らが骨董市を歩いて見つけた仏具の燭台や、信楽の作家に作らせたオリジナルの貍など独特の趣向が控えめに凝らされている。 また、カウンター席をより豊かにゆったりと広がりを感じさせ、また様々な過ごし方を選べるテーブル席、ボックス席の客室2,3を計画した。広がりと同時に少し囲まれた空間も作れる様、柔らかに間仕切る事が出来る太鼓障子を設置している。 客席3では、クライアントによりアンティークシャンデリアや、酒神バッカスの絵画を設え、和風空間との不思議な調和を創り出し、非日常を感じさせるような空間づくりを意図している。 店の顔となるファサードは銅板葺きとしている。葺きたての銅板は赤く光を反射し見るものの目に刺激が強い仕上げであるが、徐々に表面が酸化して、落ち着いた表情へと変化していく。数年経つ頃には、この地域の定番の洋酒が飲める場所として、昔からあった様に、街なかの景色に馴染んで行く事を期待している。

クレジット

  • 設計
    髙橋勝建築設計事務所
  • 担当者
    髙橋勝
  • 施工
    山﨑工務店、玄関の信楽焼たぬき:藤原孝親、カウンター天板:丸萬、客席3シャンデリア:森都 森文雄
  • 構造設計
    アトリエSUS4
  • 撮影
    松村芳治

データ