
シニア夫婦のための、築143年缶詰茅葺き民家の改修 子供が独立し、二人暮らしとなって久しいご夫婦が暮らす古い缶詰め茅葺きと50年前の増築部の耐震・断熱改修です。 明治初期より受け継がれ、半世紀以上も暮らしてきた茅葺きの家屋に今後も安心して、暖かく快適に住み続けられるようにすること、また改修後でもGWや夏休みに集まる大勢の子供家族達と楽しく過ごせる家が求められました。 耐震フレームによる補強 本計画の耐震改修では、「耐震フレーム」というあまり見慣れない構造フレームを茅葺き建物の主架構を取り囲む形で4箇所に配置し、主たる耐震要素として殆どの水平力を負担させています。「耐震フレーム」とは、105角の木材で組んだキューブ状のフレームを基礎に緊結し、X,Y、Z方向へ90角の筋交いを組み込んだ強固な構造物です。(図参照) なぜ「耐震フレーム」を考案・採用する事になったかは以下の理由からです。 茅葺き棟の主架構にはもともとまともな壁がなく、引戸と垂れ壁、床の間ですべてであった。これは、建具を取り外せば広い空間となる事で冠婚葬祭や親戚・地域の集まりなどにも対応出来る民家住宅の重要な機能であり、この柔軟な機能はクライアントの住い方から、また明治期からの建物を残したいという要望からも残す必要がありました。しかし耐震診断では、最小評点が0.55(垂れ壁雑壁すべて含む)という結果であり、このままでは大地震時には倒壊する可能性が高ことに加え、茅葺き主屋と増築部は高さ・重さが異なり別々に動きやすく、一気に崩壊するリスクが高い状態でした。そのため主屋と増築部それぞれに十分余裕のある耐力を持たす事で、変形差を抑える耐震補強が必要であると考えました。だが、そこまでの耐力をもたせる耐震改修は工期工費ともに大きくなってしまう事に加え、住い方の保存という条件から、主架構には壁が作れないという予条件がありました。そこでひねり出したのが空間を仕切らない「耐震フレーム」です。 耐震フレームで十分な水平耐力(他の要素もすべて含め総合的に評点3.13)を確保できたため、既存の建物壁面の大きな解体や大規模な基礎工事も必要なく躯体の健全化と新設の土間と躯体の緊結のみという、比較的小規模な工事内容と出来た事は、改修コスト縮減と工期短縮に大きく寄与しています。また、フレームはベンガラで仕上げられて南側ファサードに現れ、耐震性向上のシンボルのように茅葺き民家のアクセントとなっています。 念入りな調査診断から始める住宅医的改修アプローチ 空き家問題が深刻化する中、市場に優良な中古物件がほとんど流通していません。それは木造であれば築21年以上の中古住宅の資産価値がゼロとなる法体系と不動産慣習に原因の一つがあることが昨今指摘されています。資産価値が認められない家に誰もお金をかけてメンテナンスを行わない為です。この状態を打開すべく既存住宅インスペクション制度など徐々に既存ストック利用がなされる流れが始まりつつあると感じています。この流れはこれから更に加速し、臨界点を超えると一気に中古市場に今問題となっている空き家群が流れ込んでくる時代が近いのではないでしょうか。そのとき既存建物の改修は中古物件の資産価値をエビデンスを持って確保、記録していく事が重要になっていくと考えられます。 神山の家の改修計画は、住宅医(一般社団法人住宅医協会が認定する資格)と協働し6分野(耐久性・耐震性・断熱温熱性・省エネ性・バリアフリー性・火災の安全性)について、まず入念な調査診断を行ってから現状分析、予算との整合性をみつつ改修後の資産価値向上レベルを確認後、工事項目を決定している。※今回特にテーマになった耐震改修計画・工事、断熱計画・工事のレポート画像を参照ください。