mimosa house

農家のお屋敷や蔵が残る古い町並みと、その田畑を宅地開発した新興住宅地の境目にこの住宅は位置している。周囲の古い家屋の屋根は独特の赤褐色で知られる石州瓦で葺かれ、山陰の集落らしい景観を形成しているが、新しい住宅街にその姿はない。 石州瓦に魅せられた私たちは、この瓦の魅力を最大限にいかす屋根をテーマに、2つのエリアの境界を馴染ませるような住宅を目指した。 敷地の広い間口をいかした長い瓦屋根は、雪が留まらないよう存在感のある勾配を確保しつつも周囲に圧迫感を与えないよう寄棟とし、軒先は手が届きそうなくらい低く延ばして親しみやすさを意識した。 近年は鉛が使用禁止になったりと釉薬も限られてしまい瓦の色も形も均一化されてしまっているため、今回は色味や艶が異なる3種類の瓦を混ぜ葺きすることで、周囲の古瓦が経年変化で赤・茶・黒が入り混じっているような豊かな表情の屋根を目指した。 おおよそ平面の中心に配置された二階のボリュームの屋根・壁はガルバリウム鋼板で4種類の幅を混ぜた縦ハゼ葺きとして、ハゼ締めの手作業が生む歪みによる柔らかい表情を取り込んだ。 溶融亜鉛メッキ鋼板のフェンスは角度によって通行人の視界に変化を生じさせるとともに、経年によって植物が建物の外観を変容していく余白になっている。   老夫婦のためのこの住まいは、一階部分のみで生活が完結し、寝室を動線の中心に据えたプランとした。寝室とリビングダイニングは吹き抜けに向けて延び上がる大きな棚で区切られているが、ガラス越しに気配を感じたり、小扉を開けて声がけが出来たりと、コミュニケーションが取りやすい仕掛けを施している。 直上の吹き抜け空間は一日中自然光が降り注ぐ光のポケットになっていて、カーテンを透過した光の揺らぎや壁の上を賑わす陰は時間の移ろいを知らせてくれる。 敷地西端の中庭と玄関はオープンな空間として位置づけ、ピアノが置かれた広い玄関土間は時々サロンとして人が集まることを想定している。 日常的な出入りは東端のガレージから、風除室と物干し場を兼ねたサンルームを通る。一部にガラス瓦を混ぜ葺きして光を取り込んでいる。躯体はむき出し、瓦の裏側までもが見え、フラッシュドアは中の構造が露わになったプリミティブな造りとしている。 地域性の色濃く残る古い家屋と、どこにでもある住宅街を一瞬にして作り出す工業製品化された住宅。その世代間のギャップを埋めるかのように、工業製品を採用しながらもその中に積極的に取り入れた「ムラ」がこの住宅を特徴づけている。 雨と雪に強いガラス質の表面は玉虫色のように多彩に表情を変化させ、山陰地方の曇りがちな空によく映えている。

チーム

メンバー

クレジット

  • 設計
    marutau arqui
  • 担当者
    桶川容子, 東裕
  • 施工
    株式会社ジューケン、山陰園芸センター ピアンタピアット
  • 撮影
    藤井 浩司  /  池本 喜巳  /  marutau arqui

データ