
埼玉県の郊外に建つ住宅の計画。 敷地は、農地を宅地開発した住宅地に位置し、角地で敷地の2面が開放されているので日当たりも良く、広い空を感じられる敷地です。しかし、敷地の傍らに高速道路が走っており、背の高い防音壁が圧迫感を感じさせ、周囲には倉庫や駐車場が点在するため、少し雑然とした印象を抱きます。 施主は自宅で営む工務店の事務所機能の拡張と、現在の住まいよりも開放的な場所性を求めて、この場所に新たな住まいをつくることを考えました。 生活の場であり同時に仕事場でもあるので、ほぼ一日中家にいることになるため、室内にいても飽きることのない豊かな空間とすること、開放的な敷地ゆえにプライバシーをしっかりと確保したい、というのが施主の要望の中心でした。 我々はまず、プライバシーを確保するため、敷地の外周に沿って壁を立て、家を形作りました。次に生活にとって不可欠な光や風を取り入れるため、家の一部を抜いて光庭を作りました。光庭が面する壁には居室と同じく窓を開け、他の窓と同様、ブラインドを取り付けることで、外からの視線や光のコントロールができる設えとしました。これにより、庭というよりは屋内に近い、一つの部屋のような空間が現れます。 屋根を南西に向けて低くしたことで、この空間には一日を通して光や風が入ります。用途はありませんが、周囲の環境から距離をとりつつ、生活に必要な環境要素を取り込むフィルターのように機能します。2階には光庭を見下ろすテラスがあり、高速道路の防音壁を眼下に、遮るものがない眺望が広がっています。この空間を中心に土間やホール、居間などのゆとりのある空間を配置し、広がりを感じられる構成とすることで、家の中での生活にささやかな余裕を与えることを意図しました。 また、道路に面する外壁を対称形とし、居室と光庭共に同じ形状の窓を均等に穿つことで、雑然とした周囲の風景に、整然としたリズムと彩りを与える外観としています。 工事を開始して間もなく、新型コロナウィルスの感染拡大が起き、生活様式が様変わりしましたが、この家の光庭は単に光や風を取り込む装置としての役割だけでなく、家という概念を超えたもう一つの「空間」として、この家の生活の中心になっています。