場所を見守る土産物店

小さな建築であっても、いやむしろ小さな建築であるからこそ都市の文脈におけるあり方を表明することが、充実した都市空間をつくりだしていくと信じている. 三重県伊賀市の中心部に5坪ほどの店舗を計画した. 店内には忍者や伝統工芸の組紐など、この地方にちなんだモチーフでデザインされたお土産物が並ぶ. この店舗の向かいには、坂倉準三設計による「旧伊賀市庁舎」が建っている. 役所機能は移転したが、建物は今後図書館などの複合施設として活用される予定である. ただ老朽化による改修コストの増大や建物の保存に対する反対意見もあり、2年間空き家状態が続いている. 全国的に解体される流れにある近代の名建築を現代に生かすことができれば、ここは他のどこにもない価値を持った場所になる. そういう場所のオリジナリティに目を向けて、場所をいつくしむ人が増えることを願っている. 場所を意識させる仕掛けとして、店内正面に大きな鏡を設置した. 商品の衣服を合わせる姿見としての役割と同時に、外の風景の広がりを店内に取り込んでいる. 内部に足を踏み入れた人は、静けさの中で鏡に溢れる風景と対峙することによって外に居るときよりも鮮明にこの場所特有の空気を感じることだろう. それは車窓からの眺めが、実際の景色よりも記憶に残りやすいのと似ている. 店舗の内装は商品の和風なテイストからケヤキを採用した. 壁はケヤキの突板貼、家具はケヤキの突板合板とし木口を見せることで格式張らないラフな雰囲気を表した. 天井回りは狭い空間に光が回りやすいようにシルバー塗装している. またお店の中央には組紐の作業台である高台が鎮座する. 組紐創業の地に眠っていたものを譲り受け、ガラスの天板を載せてディスプレイ台に転用した. またファサードのガラス建具はこの地方の空き家にあったものを加工して蘇らせた. この地で長く使われたものを活用することによって、訪れる人にここにしかない場所性を感じてもらえればと思う. この場所が良い方向へ変わっていくことに期待を込めて、変わりゆく様子を静かに見守る「建築の構え方」について考え提案している.

チーム

メンバー

クレジット

  • 設計
    きりん、製作照明/Bowl Pond Platz、のれん/有限会社 アート工房、看板/有限会社 タクミスタジオ
  • 施工
    ドリームリフォーム株式会社
  • 撮影
    山内 紀人

データ