雑然とした現代において、この家は、フィルターの役割を果たす:雑多な景色をシャットアウトし、その奥に寝そべるのどかな風景ー羊蹄山へと続く手付かずの大自然ーに焦点が絞られる。 世界有数のウィンターリゾートとして名高いこの地に建つKハウスへの注文は単純明快だった:「シンプル、かつエネルギー効率が良く、メンテナンスフリー」。古風な「シャレー風山荘」が主流の比較的大規模な開発地にありながら、必然的にその真逆を目指すこととなったこの家の設計においては、「東に位置する羊蹄山を一望する絶景」という無形資産により、自ずと建物の向きが決まった。加えて、近隣建物に対する我々の無関心さで(そして結果的にそのような忖度を回避するため)、配置に調整が加えられた。 一旦足を踏み入れれば、そのコンセプトはさらに明快になる。大きな間口は家全体、さらにはテラスに向かって解き放たれているーまるで建物全体が自然界へのゲートウェイであることを暗示するようだ。 テラスに向かって歩を進め、見上げると階段の向こうに空が垣間見える。左右に配置された主寝室とバスルームを繋げれば東側ファサード全体にマスター・スイートが生まれる。 「シンプル」という概念が構造全体に貫かれており、家の隅々にそれを感じる。設計に組み込まれた完璧な正方形が、柱と梁をくぐり抜けて内から外へ広がり、解き放たれた空間を演出する。 入り口からテラスへと繋がる堅固な軸的空間とはうって変わって、二階部分は北海道杉のあらわし梁と柱が、より広々とした空間を作り出している。小さめの箱である客室とバスルームは西側の梁下に収め、東側に書斎、リビング、ダイニング、キッチンを配置した。 外から見たKハウスは、アルミニウム亜鉛合金板を纏った均一的な塊で、移りゆく外界の色をしめやかに映し出している。屋内から見た開口部(窓)は、さながらライブ·ペインティングだが、外から見ると、セットで家の構成要素をなしている。 周囲の自然と家とが一体化し、刻一刻うつろう色あいや陰影を感じさせてくれるシンプルな場所、K ハウス。この家は、贅沢というものの真髄を思い出させてくれる。「簡素こそ贅沢」という禅的解釈が、雨露をしのぎつつ常に自然との対話を内包する「羊飼いの山小屋」という元祖シャレーの在り方に、奇しくも通じるものがある。 (翻訳:山尾暢子)