本計画は旧東海道沿いの古い宿場町に位置し、東西に長い「うなぎの寝床」のような敷地に計画された私自身の自邸になります。南北に面する隣地は境界近くに建物が配置され非常に採光・採風が確保しにくい条件ながら西側は私の実家にあたるお寺の境内に繋がるという特殊な敷地条件で、まずこの条件を生かすことからこの計画がスタートしました。 敷地のデメリットである採光・採風を確保するために主要用途を二階に配置させ、建物自体は凛と佇みながらも周辺環境に溶け込むような浮遊する住まいを構築させました。また一階の一部をピロティ化させることで裏の境内へと繋がる路地空間を創り出しました。この浮遊する住まいと路地空間は密集した隣地環境に余白を創り出し、街を敷地内に引き込みパブリックとプライベートな空間を緩やかに繋ぐ効果をもたらした。この「緩やかに繋ぐ」意識は全体計画でも常に意識しながら計画を行い、中間領域を介して内部と外部が緩やかに繋がる空間を創り出しました。具体的には、アプローチの路地空間からはじまり、外部化した玄関に内部化したバルコニーなど。直接外部に面する開口部には格子戸を設けることで緩やかに境界線を仕切ることを意識しました。 このような意識は、私自身が幼少期からお寺という特殊な住環境に住んできたことが影響しているように思います。内土間や縁側、中庭に境内、障子に襖など。そういった境界線が曖昧でパブリックとプライベートが緩やかに繋がる住環境を実体験してきたことで、本計画では現代に再構築させた豊かな空間へと落とし込むことが出来たと思います。 建物全体としては出来る限りコンパクトにし、その代わりに出来る限りの余白を創り出しました。私は常に「人や自然に寄り添い日常に馴染むシンプルな空間」こそ、豊かな住まいだと考えています。その為にも機能性を確保しつつも余分なモノはなくし「豊かな余白」を造ることがとても大切だと考えています。 敷地や空間に生まれた余白は自然溢れる奥深い空間を生み出し、私達に多様な豊かさと質を与えてくれます。本計画でもその余白に樹木や植物を配置することで家のどこにいながらでも自然を感じ季節や時間の変化を楽しむ豊かな空間を確保しました。人は自然の移ろいや光の陰影など「変化するモノ」に心動かされ、年月を重ねる程「味わいを増すモノ」に心惹かれます。この無駄のないすっきりと落ち着いた和の空間も、私たち家族の日常に「多様で豊かな変化」を日々与えてくれています。

クレジット

  • 設計
    ハース建築設計事務所
  • 施工
    株式会社松彦建設工業
  • 構造設計
    ナカオ建築設計舎
  • 撮影
    山田雄太

データ