古くからある大阪市内の住宅地での計画である。住吉区にある敷地付近は、一部に長屋が残るものの、無秩序に順次建て変わっている状況であった。長屋跡地の分割で出来た敷地形状からくる、4m程度の間口で隣地境界いっぱいまで寄せる建ち方が、地域で見出せる緩やかな共通項としてみえた。 全体の構成は、東西の隣地境界に沿って設けた2枚の大壁で領域を確保し、その間の短辺方向に1階から屋根レベルまで突き抜ける大判の板壁、「寄木壁」をランダムに配した。「寄木壁」は、構造体(耐力壁、柱)であるが間仕切壁でもあり、構造体としての強い存在感と、屏風や衝立に近い軽く感じる瞬間のある両義的な存在となった。テラスの植栽や、土間コンクリート、エキスパンドメタル等の素材、寄木壁と断片的な床による個室化されない空間の連続性と天井高さは、トップライトによる上からの光と相まって外部の様に感じられ、散策的で多様なシークエンスと奥行感を生み出している。そして、際立った「寄木壁」は住宅のスケールを超えて、遺跡的なスケールを感じさせる。また、一見開放的な水回りは「寄木壁」による緩やかな分節(壁的な性質)、とモノや人の拠り所となる求心性(柱的な性質)を踏まえて生まれた。 長手の閉じた壁と、それに直交する耐力壁という基本構成は、長屋の一区画と同じ構成である。短手を耐力壁のみに純化してつくり、中庭を内部のテラスとすることで、街が長屋として積み上げてきたすまいの伝統を踏まえ、抽象化して更新することを目指している。 「寄木壁」により、感覚や身体を触発しながら多様な意味を持つ「多義的な場所」をもつ空間が生まれた。

クレジット

  • 設計
    モカアーキテクツ 照明:NEW LIGHT POTTERY カーテン:fabricscape
  • 担当者
    門間香奈子,古川晋也
  • 施工
    ヒロタ建設
  • 構造設計
    tmsd 萬田隆構造設計事務所
  • 撮影
    笹倉洋平(笹の倉舎)

データ