
すべての面が近隣と隣接した旗竿地。このような土地では、高い壁を建てプライバシーを確保するのが通常のアプローチかもしれない。しかしこの敷地を購入した施主は、そのわずかな距離感を活かしてあえて周辺環境とつながり、近隣に対してできる限りオープンな住宅を設計することを選択した。東京の都市部では、近隣と密接しているのにも関わらず、周りの環境とつながることを拒否し、高い壁を立てることが一般的だ。今回の敷地も条件は同じだったため、それとは逆のスタンスを取ることで、プライバシーを確保しつつも都市部へと開けた空間にすることを可能にした。それは、森の中に急に開けた空間であるかのようだった。 デッキから屋根へと続く階段の踊り場は面積を広く取り、生活する中で住人が色々な方向へ回遊できるように設計した。1階も同じようなオープンな空間が間取りを占めている。コンクリートの床は外へと延び、ランドスケープの一部となり、その抽象的な形状で境界線を曖昧なものにした。その境界線は内側と外側を区別するものではなく、都市と住まいの境界を定義している。大都会、特に東京ではこのアプローチが非常に有効であると考えている。建築に対して寛容で個々の表現を受け入れる東京では、都市部の条件を拒否するのではなく受け入れることで、日照、外気、空間へのアクセスをより可能にする。 限られた予算の中では、木造のできるだけシンプルな構造を選択せざるを得なかった。災害が多い日本での木造建築は、地震に耐えうる大量の対擁壁や筋交いを使用しなければならず、思い通りの設計をすることがなかなか難しい。それに応えるべく、建物の両端に大きなX型の壁を設置した。控え壁の機能を果たすその構造が建物の外に出ることで、室内のオープンな空間を妨げない設計が可能となった。 1階と2階はそれぞれ個別の部屋として考え、箱状になった浴室とトイレがオープン空間の大まかな仕切りとして機能している。2階の階高については、リビングルームから近隣の屋根越しに近くの渓谷の景色を眺められる高さに設定した。さらに1階の3メートルある天井高を活かして収納空間を天井から吊るし、床部分をフリーにして日々生活をするオープン空間を確保した。その収納空間はマスターベッドルームの境界線の役割も果たしている。そしてその収納から吊るされた大きな引き戸を使用し、必要に応じて浴室とベッドルームを閉じることができる。