東京メトロ根津駅から徒歩で5 分ほどの池之端界隈は、昔から路地の多い街である。この地域の路地は、恐ろしく濃い人間関係と他人を意識せざるを得ないコミュニティを生み出し、そして地域の文化を作ってきた。そこにひっそりと馴染みつつ、しかしこの地域には似合わないヴォリュームの築50 年の『花園寮』という名の社員寮があった。花園寮の平面計画を眺めていると、路地に面する長屋式に連結した町家の平面形状に似ていることに気付いた。現地調査をすると生垣、季節の飾り、植栽、段差、電信柱、ブロック塀、マンホールといった路地にある特徴的な要素が見つかった。  本計画では、もう誰も住んでいないこの花園寮をスタートアップ企業向けのオフィスとアートスペースに改修し、地域に新しく受け入れられていくため、地域の特徴である路地を新しく作ることにした。この路地を中心に寮を磨き直すことで新しい地域の一面が外に出ていき、地域の憩いや潤いができる公園のような場所、地域住民と入居者の出会いの場所、入居者同士が親密なコミュニケーションを築け、次のビジネスにつながる場所を目指した。生まれ変わる建物には花園寮と路地を英語にしたalley から『花園アレイ』と名付けた。花園アレイは、社員寮の住戸のほとんどをオフィスに改修し、社員寮の管理人室をオフィスの入居者がミーティングに使ったり、パーティーやセミナーに使えるラウンジに、5F のアートスペースであるギャ ラリー、そして屋上のハーブガーデンからなる。  ここには今後社会にインパクトを与える特出した人が集まり、支える場になるようにスタートアップ企業に優しい家賃設定になっている。そのため内外装とも極めてシンプル、そして築50 年の建物を生かすことをコンセプトにしている。外装は、ほぼ既存のままで路地を作った。路地には、賑わいが生まれるようにベンチやアウトドアラウンジ、路地や公園のようになるように路地にある植物を植えた。内装は、新しくなっても社員寮だったことがわかるように、間仕切りや押入の跡、浴室のタイルの形のままのモルタル、新築当時のコンクリートの様子などを残すことにした。  花園アレイでは、入居者が成長できる場と新たな社会価値創出を支援し、東大と芸大中間地点であるこの池之端の地を創造と芸術の発信地として、地域価値の向上に繋がると確信している。 

クレジット

  • 設計
    シオ建築設計事務所、照明設計:杉尾篤照明設計事務所、家具:カッシーナ・イクスシ―/タイムアンドスタイル/ASPLUND、植栽:SOLSO、サイン:立庵
  • 担当者
    子浦中、大金司
  • 施工
    ビルシステム
  • 撮影
    淺川敏

データ