敷地の北には六甲山、南には太平洋を望む、阪神間特有の住宅地・芦屋のマンションリノベーション。風光明媚なロケーションにも関わらず、中廊下の北と南にLDKが並ぶプランで、天井高も一定の画一的な住戸がスタッキングされている。このような職住の場所が分かれていた近代という時代の遺跡を穿つように掘り進み、海と山をつなぐ、本来の人間の営みが取り戻されるような洞窟のような住処を目指した。 ひと続きの洞窟の中心は、天井高が約2400㎜~4000㎜と変化に富んだ、南から光に差し込む明るく、広場のようにのびのびとした場所である。そんな広がりのある空間全体を見渡せる物見台のような場所がある。 一方で、物見台の下は天井高が約600㎜~800㎜で、四方が壁に囲まれた、穴蔵のように暗く狭い場所である。また、北面には天井高の高い通路や天井高の低い洞穴のような場所もある。そして、北側の孔を覗けば緑の風景が広がり、南側の孔からは海が見える。南北に風が通り抜けるのを感じられる。ただ、広く均一な空間ではなく、平面方向・高さ方向の変化、自然の変化が感じられる、それぞれに特徴のある空間である。 また、それぞれの場所には名前を付けないことを選択した。この名前のない、変化のある空間では、それぞれの振る舞いの選択肢が増え、物理的・精神的な余裕が生まれる。その時々、思い思いに自由に好きな場所を選び、能動的に暮らすことができる。

クレジット

  • 設計
    中西正佳建築設計事務所、照明:猪股 寛
  • 施工
    有限会社ビームスコンストラクション
  • 撮影
    藤井浩司(竣工時)/住人・中西正佳建築設計事務所(引越し後)

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