
京都駅近くのヘアサロンの移転計画。移転先は、車のショールーム跡地の2階テナントであった。南側は表通りへ跳ね出したフルハイトの曲面サッシによって解放され、北側は車用の昇降エレベーターが付いたテラスに面した特殊なテナントだった。 お店にはその業態らしさを強くもつアイテムがあり、ヘアサロンのカットミラーはその1つだ。多くのヘアサロンにおいてカットミラーのスタイルはドレッサーの延長線にあり、それが複数並ぶことでヘアサロンらしさを強く主張する。「FLUX(フラックス)」という店名にふさわしい、空間に風の流れが抜けるような軽やかな場所としたかった。そのためメインのカットミラーを吊り下げ、全面を鏡面とすることで、ドレッサーのような物的な存在感を希薄化した。物としてのミラーでなく、ミラーが映し出す像を際立たせ、同時に空間へ調和させることを考えた。 仕上げカットのエリアの鏡は1本のワイヤーに取り付け、振れ止めと角度調整用の重りを吊っている。南側へのサッシの開放感を損なわず、カーテンが生み出す柔らかい光のなかへ、まるで映し出された像が浮かぶかのようにした。 ヘアサロンらしさから自由になった空間は、その店舗独自の魅力をもつといえる。非日常的な空間は、新鮮な体験を生み出すだろう。 京都らしく建築に奥行きがある空間の特徴を生かすことを考え、お店の奥に進むたびに視点が変わり、異なるシーンが展開するよう構成している。表通り側のインフォメーションに対し、落ち着いたテラス側をメインのカットエリアとし、中央箱型のシャンプーブース区画によって空間全体を緩やかに区切った。メインカットブース中央のブック型のミラーは、外側に2席、内側は2面鏡の席として使用できる。ミラーは吊り下げ、全面を鏡面仕上げとすることで、軽やかに空間に溶け込む。また区画とミラー高さをH=1500mmへ等しく制限することで視線の抜けをつくり、スタイリストの全体への視界が保たれている。 インフォメーションカウンターには、前面に段を設けた。花が活けられたり、物販のカウンターとして使えるような、おおらかで変化のある利用を想定している。 南の道路側へ曲面に張り出した場所は、明るく開放的な場所だ。ゆったりと過ごしてもらえるよう2席のみとし、カーテンで道路からの目線と光を調整した。 FLUXという店名には、流れのようにたゆまず、お店は成長したスタッフが活躍するステージのような場所であってほしいというオーナーの思いがある。南側のカットスペースはその象徴とし、カウンセリングや最後の仕上げをするハレの場とした。