
「ビルの地下に駐輪場をつくりたい」一本の電話からはじまった本プロジェクト。 従前は飲食店が入居していた地階のテナント区画。地階へのアクセスは一般的な勾配の階段のみであり不特定多数を対象とした駐輪場としては難しい状況であった。一方で風雨に晒されない屋内である利点を考慮し、スポーツバイク専用の会員制駐輪場として計画を進めた。 最初に現場を訪れたときには既に飲食店の内装は解体されたスケルトンの状態であり、アンダーグランドな雰囲気が漂う空間が広がっていた。建築としては即物的な設計とし、会員制であることからユニバーサルなデザインではなく、サインは地上から動線を誘導する役割として空間に上書きするように「線」を基本として計画を行った。 本施設の周辺はオフィス街であるがマンションも多いため、「整備するスペースに困っている近隣居住者もいるのでは」という仮説を立て、階段によって分節された空間の一方を、150台分の駐輪スペース、もう一方を自転車通勤やサイクリングの拠点としても快適に機能する更衣室やロッカー、プロユースの自転車専用工具や洗車もできるシャワーを設けた整備スペースとした。駐輪スペースは月極で運用するためラック台数により収入の上限が決まるが、整備スペース利用のみの会員も設定することで収益の上限を外すことができる想定である。 コロナ禍でテナントがやむなく退去してしまったビルオーナーも多い中、イニシャルもランニングも他の用途と比較すると低く抑えられる駐輪場。ビルの活用方法の一つとして再現性のあるプロジェクトになった。