JECTONE人形町ビル

路は町を構成する要素の中で最も身近な公共空間と言える。本敷地が位置する人形町は、区道、私道、通路が織り交ざって構成され、慣習的に敷地内を通る路が存在する独特な小路文化を持つ地域である。計画地の北側にも、各所有者が敷地の一部を開放した生活通路があり、周辺住民によって日常的に利用されている。本計画では、この持ちつ持たれつの生活風景が色濃く残る小路文化を1つのエッセンスとして、町のライフラインと接続し地域の魅力と呼応するオフィスビルにしたいと考えた。旗竿敷地では、6階建のオフィスビル建築時に求められる避難階段を、ファサード面に積み上げて構成する手法が多い。しかし、本計画では避難階段を接道面ではなく敷地奥へと引き込むことで、自由なファサードデザインを可能にし、さらに、避難階段を公共空間に繋がる路の1つと捉え、歩道のようにシームレスな構成にすることで、旗竿敷地での新たな佇まいを魅せる建築とした。路から続く一筆書きの様に建物外周を巡らせた避難階段は、屋上まで続く立体的なシークエンスを展開してゆく。階段によりくり抜かれた形状から漏れ出す光は、人形町の夕景の中で行燈のように町へ溶け込む。また、最大容積のボリュームでありながら、天空率クリアのためにカットした角を曲線とする事で、階段がシームレスに繋がると共に、余白空間が生まれ周囲との距離も図れた。さらに外観をドレープの様な波型の外装材で包む事で、建物の大きさが与える圧迫感を軽減し、柔らかく軽やかな印象とした。建物内部では、XY軸に加え斜め方向にも梁を架ける事で、塔状建築による梁せいUPを抑える合理的な構造計画とした。三角形状に交差する梁が織りなす鱗文様、立涌文様を模すように配した外装材の水玉柄、市松文様や亀甲文様など建物全体に散りばめられた『吉祥文様』が、人形町の伝統や文化を内包する、この街らしい成り立ちとしている。

クレジット

  • 設計
    KADA
  • 構造設計
    中田捷夫研究室
  • 撮影
    イメージグラム
  • 設備
    NoMaDoS
  • サイン
    高橋耕平
  • ランドスケープ
    woodsmart

データ