林崎松江海岸の家 / カレーハウスバブルクンド

ビルディングタイプ
戸建住宅
67
5,413
日本 兵庫県

DATA

CREDIT

  • 設計
    一色暁生
  • 担当者
    一色暁生
  • 施工
    笹原建設
  • 撮影
    大竹央祐
  • 造園
    abcde studio

海水浴場すぐそばの土地に建つ木造住宅を改修し、設計者の自邸と仕事場、そして知人が営むカレー屋とした。その古い木造住宅の2階には、空と海だけをぽっかりと切り取るちいさな窓があった。 海水浴場へと続く人通りの多い道路に対しては緩衝帯として庭を設け、その奥に、カレー屋、設計事務所、住宅、と段階的に街と繋がるようにした。73㎡と決して広くない建物に3つの用途を同居させているので、それぞれの用途は、専用のエリアを持ちつつも部分的に兼用し、じんわりとあふれ出しながら緩やかに繋がっている。2階は既存の壁を取り払い一つのワンルームとし、海と繋がる北西角部に全開口できる木製建具を設けた。窓台の高さを630mmと低めに抑えていることもあり、開け放つと室内と海は渾然一体となる。海からの強烈な潮風に対しては建具の見込みを54mmと厚くすると共に、外部側からも締められる鍵を設置した。 この家を設計しながら意識したのは「混在」についてだった。用途、文化や国籍、時間や空間、街と家、仕事と生活、この家を取り巻く様々な混在の在り方に注意を払いながら設計を進めていった。 自由に海外旅行ができ、インターネットで瞬時に世界と繋がることができる現代。街中には世界各国の専門料理店があり、普段気が付かないような生活の細部にまで様々な国の文化が入り混じっている。住宅も同様に、建材や意匠、すべてにおいて意識されることなく様々な国の文化や性質が混在している。意識して純粋な和風住宅をつくろうとでもしない限り、異国の文化は自然と入り込む。日本のスタンダードとなった「多国籍な住宅」は、もはや文化という文脈から離れ、無秩序に拡大している。 設計にあたって、今一度自身のルーツや文化的背景を理解した上で、この地に古くからある材料や技法を用いながら、異国のエッセンスを混在させることで「多国籍な住宅」を更新することができないかと考えた。また、それは日本の住宅文化を再評価するきっかけにならないかと考えた。 例えば、土間の敷瓦は、この地域がかつて瓦の一大産地だったことに由来し、テクスチャやエッジの形状に中南米の街で見た溶岩の石畳のイメージを重ねたものを、淡路の瓦職人にひとつひとつ手仕事で製作してもらった。障子には蚊帳のようにも見えるネットや簾を張り、熱帯とノスタルジアに思いを馳せた。障子や襖など不完全な仕切りで空間を透かしながら繋がってゆく奥ゆかしい平面空間は日本古来の建築の姿だが、この家では断面方向にも空間は繋がり、南国原産の下垂する植物が適度に空間を隔てる。大工の手仕事が生きる細やかなディテールには、樹種や調色を吟味することで異国の空気を宿した。2階の海と対峙する壁は、弁柄を混ぜた掻き落とし壁とし、淡路の左官職人に仕上げてもらった。これは各国にある色鮮やかな壁を建築に取り入れる手法を、日本的な文脈の中で試みたものだ。 時間の混在が空間に奥行きを生むと考えた。新旧の対比を際立たせたり、全体を古いものに合わせたりするのではなく、古い素材やデザインをある時間軸を持つ要素のひとつとして捉え、新たに追加した部分を含めて全体として長い時間の幅を感じられる空間を目指した。それは古くもあり新しくもある空間。既存の柱梁と新しい柱梁は縦横無尽に入り乱れ、既存の型板ガラスが透けて見えるかたちで新たな建具が重なる。扉には旅先で購入した年代の知れない取手が付き、檜の化粧柱が悠久の時を感じさせる自然石の上にひかりつけられる。様々な時間軸を持った素材が混在し、共存する。新たに追加した素材は経年で味わいが増し、時と共に常に美しい姿を感じさせるものを選択している。 簾の隙間から事務所にこぼれるカレーに舌鼓を打つ人々の楽しそうな会話。視線を向けると、客席のさらに向こう、芭蕉や棕櫚竹の葉叢の間からサーフボードを持った若者たちが楽しそうに海岸へ向かう姿が見える。この家の2階には、空と海だけをぽっかりと切り取るおおきな窓がある。窓辺で貪る午後のまどろみに、厨房から立ち上る香辛料の香りが夢の中に異国情緒を添えてくれることもあるだろう。この家では、様々なものが、生き生きとありのままに混在している。この混在は、あらゆるものを受け入れる海のようなおおらかさを生み、身を委ねるものの意識を水平線の向こうまで導いている。

物件所在地

67
このプロジェクトはTECTURE AWARD 最終候補作品です

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