しののめ信用金庫前橋営業部ビル

1964年に竣工した本建築は、現・しののめ信用金庫として合併する前の前橋信用金庫の本店として構えられた。鉄骨鉄筋コンクリート造で、信用金庫肝いりの建築物であったと伺える。しかしながら2015年に行った耐震診断で問題ありという判定を受け、我々が参画した時には建て替えやむなしという方針だった。構造設計者の所見などから既存の構造に致命的な欠陥は見当たらず、バランスを取り戻すことで耐震基準を満たせることが明らかになり、改めて改修がリアリティを持った。また、本計画の初期段階からエフエム群馬社屋の移転計画が敷地内に組み込まれた。地域メディアと地域金融の同居が実現することとなり、異なる二社がひとつのエリアを共有し、どのような相乗効果をもたらすのかが期待された。信用金庫は銀行のような株式会社ではなく、「地域との共存共栄」を目的とした協同組織である。だからこそ、自社の利益を追求するだけでなく、地域の魅力を高め愛される場を提供することで長期的な視点に立った総合的な発 展を目指すことができた。本建築が建つのは前橋市中心部。しかしエリアの特徴を見出そうと思うと少々難しく、街の特徴的な各エリアの中間に位置しており、明確な特徴に乏しい。だが、見方を変えてみるとそれらのエリアを中継する地点である特徴が浮かび上がってきた。そんなポテンシャルを持った敷地だが、既存建築物は 東の国道側に正面性があり、長手面の南側は駐車場として利用されるのみであった。そこで、街区の内外を反転させ、街区の中に「表」を生み出すため、中心に広場を設け、街区を囲む歩道と接続し歩行者が安心して歩けるようにすることで、これまで裏であった南面や西面も新たなファサードとなり、建築が歩道に面する表面積は格段に広くなった。エフエム群馬社屋もこの広場を挟んで信用金庫と対角に配置することで、開かれた広場の魅力をともに享受する。広場が生み出す街路性を建築内部にまで浸透させるため、1階ロビーは広場と等価に扱われている。信用金庫の営業部機能は南側外壁ラインから一歩引いた位置に縮小し、建物内に入れ子状に建物が建つように見える。ロビー床は広場と同じ煉瓦を使用し、植樹帯や外灯も内部に配置され、コーヒースタンドが内外を繋ぐ。増築された2階は、信用金庫の営業時間外も利用可能なライブラリーとして一般に開放されている。空白のエリアにおける街区と街路との関係性を反転 することで、市中心部全体の見え方までも反転する。敷地内にとどまらず地域全体に波及する意図をもった一手が重なっていくことが、膠着しつつある地域の多面性を喚起し、弛緩させるために建築ができる有効な手立てとなる。

チーム

クレジット

  • 設計
    HAGISO + twism design studio
  • 担当者
    宮崎晃吉 / 田坂創一 / 小泉大河 / 村越勇人 / 木原ツトム
  • 施工
    小林・宮下特定建設工事共同企業体
  • 構造設計
    金箱構造設計事務所
  • 撮影
    千葉正人
  • 機械設備
    テーテンス事務所
  • 電気設備
    ルナ・デザイン・ラボ
  • ランドスケープ
    SfG landscape architects
  • プロジェクトデザイン
    トーンアンドマター
  • サインデザイン
    Maniackers Design
  • 施主
    しののめ信用金庫

データ