
鎌倉旧市街にあるこの300坪の土地と築90年の屋敷。ここは1930年代当時の面影を遺す稀有な場所であったが、その広さゆえに利便性が悪く、利活用の目途が立たずにいた。本件はその再生を図った改修計画である。 計画はまず内装解体から始まった。解体前の天井高は2.5mで、雑壁は土壁で仕上げられていた。 そしていざ天井を壊してみると、2.5mラインを境目に土壁は頭打ちとなり、頭上に無骨な小屋組み空間が露わになった。それは90年間、誰の目にも留まらずとも確かにそこに存在し、文字通り屋敷を支えてきた象徴的なエレメントである。対して土壁には、多数の増築や補修の痕跡が残っていた。この壁は小屋組みとは対照的に、90年間アップデートされ続けることで貢献してきたエレメントである。この2.5mを境目にしたコントラストに、屋敷の改修歴を貫くある種の物語性を見た。 計画はこの手つきを踏襲して、原則FL+2.5mラインの下のみに手をつけている。今日の建築的所作も、屋敷の改修歴と地続きにつながるよう図ったのである。