子供が感じている空間の捉え方は私たち大人が感じるそれと少し違うのかもしれない。施主の長女がおもちゃを使って妹と遊ぶ様子を何気なく見ていてそう思った。 シルバニアファミリーの家具たちが赤い屋根の家の中から溢れ出て、テーブルや冷蔵庫がフローリングの上に並べられている。そこは時には、青空の下でご飯を食べるダイニングルームになったり、兄弟が学校から帰ってきて仲良く宿題をする勉強部屋になったりもする。レゴブロックや他のおもちゃも持ってきて、即席の部屋はどんどん広がっていった。それは設計図も間取り図も読めない子どもが描く、うさぎの家族のためのその日限りのお家の姿。 それが大人になると、2LDKだとか3LDKだとか、部屋が並んだ間取り図とにらめっこして、何人家族なら部屋がいくつ必要だとかリビングは何畳以上必要だとか、みんなが不便なく過ごすことのできる間取りを探さないといけない。紙の上の間取り図は、現実味を欠いたまま近づいてきて、これまでも変わってきてこれからも変わっていくだろう家族を平面の中に住まわせる。 築30年の建売住宅をリノベーションした。その家は、画一的な建売住宅が並ぶ一番端っこにあった。狭い間口で反復するファサードには背面に規格化した平面がくっついてるようで、それは暗くて息苦しい住空間の様子を連想させた。そのイメージを払拭したいが、予算を考慮すると外観に大きな手はかけられないし、家の奥などはできるだけ既存のままを活かした方が良い。 そこで名前もなければ特別な機能も持たない部屋、というよりは「余白」を家の前面に3層貫く形で挿入することで、立面と平面を切り離し、二次元的な秩序を超えた住空間をつくることを考えた。 余白には家の面積の約1/3を充てている。吹き抜けを貫く気積は、鉄骨に吊り下げられた植物やスノコの合間を縫って落ちてくる光に溢れ、家族を優しく包み込む。余白と各部屋との境界は、レースが張られた障子やカーテン、ガラス、フルオープンする斜めの木製建具など、なるべく不確実で透け感を持ったもので仕切っている。それは日々の変化や家族ひとりひとりの感じ方に合わせて生活が余白に溢れ出していけるようにするためだ。ファサードを隔てた家の外には、半透明のテントを張った駐輪場と小さな庭によって曖昧に囲われた空間をつくった。そうして余白は家の外まで飛び出し、立面と平面の制限を超えてゆく。 生まれ変わったこの家で、二次元の設計図には描くことのできない、家族のための自由な空間が育まれていくことを願っている。

メンバー

クレジット

  • 設計
    一色暁生
  • 担当者
    一色暁生
  • 施工
    コムウト
  • 構造設計
    片岡構造

データ