
PROJECT MEMBER
東銀座、歌舞伎座の裏手。歴史ある小さな飲食店や画廊、お弁当屋など下町風情を残した魅力的なエリアの一画で隠れ家のようにカフェ・ムサシは営業していた。もともと店主の親族が経営していた鉄骨造の印刷所ビルが役目を終え、その1階で働く人のために一汁三菜を基本とした家庭的なランチを提供していた。健康志向の女性客にとても人気があり、口コミや雑誌の評判もよいお店である。 老朽化の中で3.11でダメージを受けたことも相まって、全体をカフェダイニングに建て替えたいとご依頼をいただいた。男性客にももっと気軽に来て欲しいという思いから、以前のかわいらしさから一転して白、黒、グレーをバランスよく組み合わせ、あたたかみのある照明でスタイリッシュにまとめ、飲食店以外の用途でも十分使えるニュートラルさを目指した。 最低容積率がまちづくり条例で決められていたが、自己所有であり経営上過剰な床面積は不要だったため、施主の利益と天秤にかけ、粘り強く交渉して最低容積率を切るかたちで収めることに成功した。一番の要望は「吹き抜けのあるダイニング」で、天井高さ最大5.6m、外観からは伺え知れない開放感があり、訪れるお客様は驚きと高揚感に包まれ、ほっと一息つくことができる。 規模は3階事務室含め50坪。除けば住宅の規模で、都市型住宅のようなつくりでもある。構造計算適合性判定の対象ではなかったが、細長い敷地でのヴォリューム形状や杭を要する地盤状況から適判にかけ、可能な限りの対応を行った。 誰にでも潜在的に欲する隠れ家的な居場所は飲食店、住宅問わずどこか相通じるものがあるように思う。提供される食事、コーヒーはすべて厳選された素材でつくられており、建物はこの食事と人が引き立つように、素材同士のぶつかり合いを正直に見せつつ「背景としての建築空間」となるように綿密に計画し実現した。正直に見せるために膨大な隠れた手間に支えられており、いかにも当たり前であるかのように魅せることに注力した建築である。 現在「cafe634洗足池店(本サイト掲載中)」に移転し、テナントビルとして経営。完全予約制の高級ステーキ店が入居中。