田園に佇む木造平屋建ての住まい。東日本大震災の再建住宅であり、2000万円以下で計画することが要件であり、一人か二人が暮らす家の一般木造住宅本体のコストとして筆者の思想とも合致している。とはいえ再建だから単に機能的であれば良い、安普請でもよいであっては再建後の暮らしの豊かさは得られにくいと考える。むしろ大変な経験をされた中で失った家の記憶を継承しながら、今まで以上に気が休まる心地よい空間を建築家の知性の総力を集めて紡ぎ出してあげたいと常々考えている中で実現することができた。 LDKと和室が納められた馬蹄形のワンルームと、水廻りを備えたゲストルームのハナレが田園風景を一望できる玄関ホールを介して接続されている構成。敷地は田園に浮かぶ小島のような三角地で、その幾何学的特徴から立つ場所によって周囲の風景への広がり方が極度に違うことを発見し、その体験を建築空間に翻訳した。視線を制御したい環境と開きたい環境、光を取り入れたい環境や北風を遮りたい環境などの違いを統合する方法として馬蹄形の一室空間が導き出された。施工性を考慮した同一角度で折れ曲がる白の壁面がリビング、ダイニング、キッチン、和室をゆるやかに分節し行動の展開を促す。床と勾配天井は伸びやかな白い壁面と対比させるように木質系で統一し、梁現しのダイナミックな雰囲気を醸し出す。ある場所では室内全体を見通せ、またある場所では互いの距離感を保てる隠れ家のような居場所が生まれる。単一断面のワンルームなのに、わずかな移動で風景が劇的に変化するこの馬蹄形の体験は、訪れるたびに移動の愉しみを更新してくれる、とても飽きのこない住まいである。 ※外構、造園などは暮らしながら設えられるよう施主に委ね別途工事とした。

メンバー

クレジット

  • 設計
    前見建築計画一級建築士事務所
  • 担当者
    前見文徳
  • 施工
    若生工務店
  • 構造設計
    有限会社大賀建築構造設計事務所
  • 撮影
    前見文徳 / 西川公朗
  • 薪ストーブ
    株式会社ぜいたく屋

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