川と共に空と共に海と共に 南麻布の住宅(HouseMA/tectureMAGに掲載)のクライアントが、引き続き私達に千葉県いすみ市にサーフィンやマリンスポーツ等を楽しめる別荘を依頼された。敷地の選定からクライアントと一緒に見てまわり、眼前に川が流れ、その先にどこまでも広がる太平洋を望むことができる場所にすることで設計がスタートした。 海が見えるということ、空が見えるということは別荘の建築において重要な要素であり、シンプルに表現される必要があるため、2階を屋根の形状がそのまま天井となり、様々な方向に視野が開ける、ひとつの開放的なリビングルームとし、さらに上がれば海と空の眺めを楽しめる屋上デッキを設定した。また、この別荘に明確な「部屋」は存在しておらず、1階に配置した3つのエリアにゆるく分けられる寝室スペースも建具は折れ戸となっていて、全てを開放すると洗面所まで一体的につながる空間となる。そして外壁に沿ってL型に配置された階段により旋回しながら連続していく、動きと共に視点が変化し、それぞれの開口を通して常に外部を感じながら、それでいて包まれるような感覚を抱くことができる内部空間となった。 玄関の外、建物のアプローチからは芝生の庭に抜ける「貫通土間」とし、サーフボードや薪等の置場として、それらを見て楽しんだりメンテナンスを行うガレージギャラリー的な場所にもなっている。そして、海風も強いことからポリカーボネードの折板で半透明の壁をつくり、常に明るい半屋外の居場所としている。芝生の庭に面する1階デッキも広いステージのようになっており、建物に覆われたデッキから、空に向けて開放的な芝生まで天候や日差し、昼夜といった自然環境の変化に応じて選択可能な居場所となる外部空間を散りばめている。木のフェンスの一部を開ければ、直接目の前の川に降り立つこともできる。 構造は基本的に4間×5間の在来木造により単純に構成されているが、1階部分では広がり、貫通土間の下屋で斜めの線を付加することで、地面における動線の広がりを補うとともに、外観の分節をおこなっている。1階は直交する大梁と十字に架ける甲乙梁により格子状の木の天井となり、2階は水平梁と束立により屋根を分節しながら北西側にも一部勾配をもつ屋根をつくり、垂木を表しとすることで流れ方向への視線を誘う効果を期待した。和小屋の素朴な構成は、例えばマリー・アントワネットが田園的な家を離宮として建てたような、都市との対比があるようにも思えるし、小さな川に面して建つマッシブな構成では、パラディオがブレンタ川の畔に建てたラ・マルコンテンタ(ヴィラ・フォスカリ)が自分の中で何度も現れた。都市と自然の切っても切り離せない関係は時代や洋の東西を問わず共通であろう。そんなことを考えながら、楽しく設計させて頂いたのであった。

クレジット

  • 設計
    STA土屋辰之助アトリエ
  • 担当者
    土屋辰之助 / 広瀬匡基 / 山﨑朋哉 / 王玉楊
  • 施工
    プレジャーガーデン&リビング / 魚地建設
  • 構造設計
    KAP(協力)
  • 撮影
    井上登
  • 不動産協力
    創造系不動産

データ

  • ビルディングタイプ
    別荘
  • 構造
    木造
  • 工事種別
    新築
  • 延べ床面積
    164.6㎡
  • 竣工
    2023-09