寺町の賃貸住居

台東区谷中にある宗林寺と長明寺の間に位置する賃貸住居の改修。 建物の東西に寺の墓地があるため、目の前を遮るものはなく、1日を通して風が通り抜ける好立地である。かつてシャンソン歌手の住んでいた内装には、印象的なシャンデリアが残っており、レッドカーペットの階段も異彩を放っていた。オーナーからは、築年数も古いため、構造補強と内装の刷新の両方が求められた。また、賃貸住居として広いターゲットを対象にしたニュートラルな内装にすることも条件であった。 まず既存の木摺壁を撤去し、壁量計算を行いバランスよく面材の耐力壁を充足させた。内装は経済性を重視した天井の既存利用や、壁クロス貼りを前提とし、シャンデリアやアーチ枠、絞り丸太など既存のキャラクターに一手間加えるくらいのささやかな操作をした。2階は続き間形式を残しつつ、襖を障子建具に変えることで外部の自然光を内部に引き込んでいる。 建物のある通り沿いには立面が平坦な看板建築が軒を連ね、外壁色は仲良く皆ベージュである。一方で当建物は唯一切妻屋根をしており、玄関が外壁面よりセットバックしていたため、その特徴を活かし、玄関頭上の軒裏ラインで外壁色を塗り分けることで家型の小屋が宙に浮いたような印象を与えている。塗り分けは上層を屋根瓦のテラコッタ、下層をアスファルトのダークグレーとした。 この賃貸住居の改修では、街の立面に馴染ませるような同化という手法ではなく、寺町の見晴らしのよい立地条件を生かして新たに外壁のプロポーションを再定義することで、場所の価値や個性を問い直してみたいと考えた。花見のシーズン、寺に咲く枝垂れ桜や萩を2階の和室から望む風景は格別だろう。

チーム

クレジット

  • 設計
    株式会社HAGISO
  • 担当者
    宮崎晃吉 / 村越勇人
  • 施工
    クラフト
  • 撮影
    株式会社HAGISO

データ