ハコフネ

ビルディングタイプ
戸建住宅

DATA

CREDIT

  • 設計
    group-scoop
  • 担当者
    安河内健司 / 西岡久実
  • 施工
    株式会社 関根工務店
  • 構造設計
    間藤構造設計事務所 間藤早太
  • 撮影
    堀内広治

子世帯6人(夫婦+4姉妹)、親世帯3人(妻の両親+妹)の棲まい。 難病により24時間介護を要する妹さんや高齢のご両親の為、都内マンションから地方に居を移し、この新築を機に二世帯同居を開始する。 人生のほとんどの時間をベッド上で過ごす妹さんを中心に家族が集まり、皆で彼女を見守りながら楽しく生活したいという施主家族の希望を実現するため、家族間に余計な隔たりのない風通しのよい空間や、介護生活と日常生活という質の異なる両軸を無理なく同時進行的に両立させるフレキシブルな空間が求められた。 一方、敷地の立地条件面においては、 はじめて敷地を訪ねた際、道中でたくさんの工場を見かけた。敷地の隣にも中規模の工場が建っており、切妻屋根の工場建築は、この地域では実に日常的な風景であり、この街を象徴するカタチであると直感した。 
これらを踏まえ、外出が難しい妹さんが屋内に居ながらも樹々の緑や青い空などの屋外的要素をあじわえ、元気な4姉妹が家中を走り回れる、余計な隔てのない工場のような空間を提案するに至った。 1階は介護の拠点となる妹さんのスペースを中心に、その両脇に常時開放の大型引戸を介してご両親のスペースと家族が集う共有スペースを配置。2階は適所に設けた3つの吹抜を介して1階とも程よく繋がる子世帯のスペースを配置。 
 ベッド生活の妹さんにも公園のような居心地を提供すべく、大きな吹抜を備えた共有スペースには常緑樹を植え、上部のトップライトより陽差しを取り込むなど、半屋外的な空間に仕上げた。 1階の床は全面をコンクリート土間でフラットに仕上げ、キャスター付ベッドで妹さんがどこへでも動けるように配慮。枕元に常時設置が必須な生命維持装置については、伸縮自在なカールコードを備えた可動キャビネットをオリジナルに造作することで、これまでマンションの1室に限定されていた妹さんの生活行動範囲を1階全域にまで拡張することに成功した。 空調面ついては、冬季は1階の土間内部に埋設した低温水式床暖房により、夏季は吹抜上部に設置した冷水パネルにより、1年を通して身体に優しい輻射式の空調環境を実現している。 大所帯に相応しい気積を確保すべく、矩勾配の切妻屋根とし小屋組を排除した建築物は、工場建築のようでもあり合掌づくりのようでもある。 都心から地方に家族を運び、安住の地に錨を下ろし大事な家族を包む‘方舟’である。

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