KYOTOWAND

ビルディングタイプ
複合施設

DATA

CREDIT

  • 設計
    coil松村一輝建築設計事務所
  • 担当者
    松村一輝
  • 施工
    㐂三郎
  • 撮影
    増田好郎
  • 家具
    potitek
  • 家具
    いえのぐ
  • スチール
    hittite
  • 藍染
    染めどころゆう
  • 和紙
    ハタノワタル
  • 三価クロメート鋼板
    テック・ワーク株式会社
  • アート(彫刻)
    大黒貴之
  • アート(写真)
    垣本泰美
  • アート(ガラス)
    関野亮

河川の本流とは別に川岸に形成された湾状の地形を “湾処(ワンド)”と呼びます。 繋がりを保ちつつも緩やかなその流れは 多様な植生を育み、豊かなビオトープを形成します。 ここに集う皆様にとって『ここへ』と『ここから』の間にある少し緩やかで自由な“京都湾処”となります様に。 KYOTOWANDには、そんな願いが込められています。 京都市東山区北棟梁町、 清水五条駅から東へ徒歩5分の敷地にて、町屋を改修した日帰り観光者の滞在拠点としての計画です。 京都市内において、寺社仏閣や文化施設等は既に世界的にも有名な観光資源となっています。 それと同時に、山に囲まれた盆地という地理的特性もあり、 山道や川沿いでのトレイル・ランニング等のスポーツアクティビティとしての環境でも、 「京都一周トレイル」といった全長80kmを超えるコースも設定されている等の恵まれた都市でもあります。 ただ、このスポーツアクティビティに関しては、利用者の数や認知度からすると、まだ多くの伸びしろが残っている状況です。 そこに着眼点を持ち、汗を流せて着替える(シャワールーム)、荷物を預ける(ロッカー)、お腹を満たし喉が潤せる(厨房)機能が揃った施設をつくる事で、 すでに認知度の高い文化的な楽しみと、今後拡まっていくであろうスポーツ的な楽しみとを、心地良く繋ぎあわせる場所を計画しています。 例えば、午前中に山道を走り、午後からは市中観光に出かける。 または、夫婦でそれぞれトレイルランと寺社巡りを別で楽しみ、その後に待ち合わせる。 そんな、ごく近い距離で異なる方向性での楽しみ方が可能な京都市のポテンシャルを引き上げる事を目的とした計画になります。 建築の内容としては、何度かの改修履歴があり原型が判り辛くなっていた為、 先に既存の構造材が確認出来るまで解体し、大工の㐂三郎 沖本氏の知識と技術と感覚にも助けて貰いながら進めていきました。 元々持っていた京町屋の風情ある街並みのひとつとして地域にも愛される建築となる様、 修繕・補強と新しく更新される箇所のバランスにも注意しつつ計画しています。 敷地は、北側の幅員は控えめな前面道路に面しつつ、東側に袋小路となった私道が通っている事で、 角地としての環境を持った形状となっています。 この前面道路を東に進んでいくと京都一周トレイルへの入り口のひとつに辿り着きます。 外観は、幾度かの改修時に上張りされていたタイル貼りのファサードをはがし、 軒庇や仕上げの表情などは、ディテールを変えつつも隣家との繋がりを復元しました。 1階部分は、私道を含め外部との繋がりを、ガラス面と引戸にてダイレクトに取れるようになっています。 また私道に沿って、大工の沖本雅章氏制作の栗材の丸太を半割してハツリ加工しされた強い素材感を持ったベンチを設置していいます。 季節の良い時期には、引戸を開け放して私道に向かっての利用も想定していて、 街からの流れを取り込み、湾処の様な溜まりの場所になる事を想定しています。 内部は、 1階に受付、厨房、受け取り・軽食・返却の為のカウンター、 客席としてサイドテーブルと椅子と組み合わせてたベンチ席、坪庭の前に4人掛けのテーブル席。 奥にトイレとロッカー、シャワールームを設置しています。 意匠の構成・素材感としては、既存の梁や柱に加え土壁等もその年月を経た表情を活かしつつ、 その中に新しく挿入した機能が埋め込まれた様に配置しています。 中央には厨房機能を持った藍染の木のボックスをシンボリックに設置しており、 この木板の藍染は、能勢の草木染め作家 山本有子氏の工房へ伺いご協力頂きました。 均一では無い揺らぎのある染まり具合を受け入れるという一般的ではない要求に、 木板パネルを担当して頂いた㐂三郎の皆様と共に取り組んで頂け、非常に豊かな表情を持った壁面となり、 空間の顔となる存在感を持った仕上がりになっています。 カウンターにはハタノワタル氏に和紙貼りをお願いし、 大まかなイメージをお伝えした上でハタノ氏の感性にお任せして仕上げて頂いています。 施工途中でも、風合いの変化していく和紙のカウンター施工はアートと言って申し分のない作品となっています。 また厨房内部の天井・壁には、三価クロメート鋼板を仕上げとして使っていて、 普段は工業品パーツ等の見えない部分で使われている被膜処理であるが、見る角度によってゆらぎのある色味を出し、 その素材の面白さを見せる様にしました。 職人の手仕事と工業品パーツの組み合わせながら、揺らぎある表情という共通項からか、 お互いに魅力を引き立て合う仕上がりになっています。 1階奥の平家部分のシャワールームは、個室ブースが2個、2人利用のブースを1個が設置してあり、 手前のロッカーでの荷物預かりと合わせて、 アクティビティ的な方面とカルチャー的な方面との切り替えに必要なサービスを提供できるようになっています。 2階は、既存の梁と屋根裏を見せつつ、設置した白の壁に挟まれた空間で、 通常は客席として階段吹き抜けに面したカウンター席と少し低めのテーブル席を設置して、ゆっくりと寛いで貰える様にしました。 これらのテーブル・椅子は、脇の倉庫内に分解・スタッキングして収納出来る様になっていいて、 年に数回程度で、制作展示の場としてのギャラリー利用も計画しており、アーティストの痕跡が積み重なっていく事を想定しています。 それに加えて、吹き抜けに設置されたガラス作家の関野亮氏のペンダント照明のシェードや 坪庭の大黒貴之氏の彫刻作品、壁に掛けられた垣本泰美氏の写真作品等、 アート作品も合わせて建物内に設置されており、 クライアントの思いとして、今まではアート作品に触れていなかった層に向けて、 キッカケとなる場所としてなれたらとも期待しています。 家具に関しては、 1、2階のテーブル・椅子はpotitek 戸田直美氏、 本棚やカウンター上の什器等はいえのぐ 先崎祐斗氏に依頼して、 デザインから制作まで、制作途中でモックアップをつくって確認したり等の丁寧な打合せ・仕事を経て、納めて頂いています。 運営形態としても、電子端末(iPhone利用)によるオーダー形式で、シャワー等の利用も含めた時間制での料金体系とする事で、 一般的なカフェとは違う拠点利用という形態を意識した運営となっています。 また、珈琲豆に関しては、京都のタビノネ 北辺佑智氏に浅煎り、宝塚のみさご珈琲 向井務氏 に深煎りでの焙煎を依頼し、 紅茶はjane t. 横江ひろこ氏にお願いした和紅茶と、インクルーシブでの提供ながら厳選されたセレクトとなっています。

物件所在地

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