野辺山の住処

自然に寄り添うプリミティブな住処 「北米大陸での世界観を共有した上で設計して ほしい」という友人でもある建主のひと言からこ のプロジェクトは始まった。2015 年、建主と共 にバイク2台でアメリカの国定公園を巡った。そ こで見たネイティブアメリカンの住居遺跡の数々は、周囲の環境と同化し、自然と共生するものだった。 標高1,380mの野辺山は、冬にはマイナス20°C にもなり、本州ではいちばん住みにくいと言われ るほどの場所である。しかしこの辺りは縄文時 代の竪穴式住居跡も見つかっていて、手付かず の自然が豊かに残されていた。敷地は森の中に 位置し、目の前には小川が流れている。大自然 に放り出されたようなこの場所では、自然と戦うのではなく、自然に寄り添って暮らすような住宅 のあり方が最初に頭に浮かんだ。 建主からの要望は、バイクを数台収納できるこ ととバリアフリーであること、それと冒頭で述べたことだけだった。 「7000R」と名付けたバイク置場は、道路からバイクが敷地に入ってUターンする形をそのまま内部化したものである。そこから土の中に900mm潜ったレベルが生活の中心になり、土中の安定 した温度の恩恵を受ける。これは「360°」や「荻窪の住宅」でも実証済み で、縄文人達が土の中に住んだように、生物が 自然界で巣をつくるように、ごく自然に土を掘る ことになった。その断面計画がそのまま屋根の 形状に現れる。立体的にうねった屋根は、まる で鯨のような又は恐竜のような姿になり、低い 所では人の腰の高さくらいまで下がっている。 平面形状、開口の取り方は川や森の見え方、 朝昼夕の光の入り方、風の流れを考慮して、ず らしたり角度を変えたりしながら設計されている。 断面的には潜ることで籠る安心感と心地よさを、 平面的には全方向から緑や川の流れを視覚と聴 覚に訴えることを考えた。 必要なものを自然に逆らわず当たり前に組み立 てた結果、別荘と都市住宅のどちらにも当ては まらないプリミティブな住処になったと思う。

クレジット

  • 設計
    /360°
  • 施工
    土橋工務店
  • 構造設計
    蒲池健
  • 撮影
    吉田誠

データ