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記憶、ルーツ、家族史から考える 敷地は神戸市西区のニュータウンの一角にある。建主が幼少期に過ごし、父親が亡くなってから空き家になっていたものを改修したいとの要望だった。現地調査の際、建主の父親が選んだというグリーンの外壁が印象的であった。また建主は、この家をつくる前は祖父が住んでいた家を引き継いで暮らし、今度はかつての実家に住まうという古きものを大事に使い続けるという、その姿勢に共感した。 そこで、建主の記憶やルーツといった固有の特徴から建築をかたちづくり、そこから生まれる建築もまた次世代へと繋がるリノベーションにしたいと考えた。 既存外壁のグリーンを内部でも具現化するマテリアルとして、淡いグリーンの色味をもつ十和田石を手掛かりとし、石を掘り出した人の手の痕跡が残る空間とした。枠組壁工法特有の間仕切りの多い間取りであったが、新しい柱、梁により壁を減らしてリビング、ダイニング、キッチンは大きなワンルームにした。外から見ると大きな ピロティ空間のようにも見え、削り出した採石場のようにも見える。 将来再度改修あるいは建替えの際には十和田石を違う場所に転用し、場のあり様を変えたり、外構の舗装、浴室に再利用するなど、さまざまな活用方法を想定している。そもそも石という素材自体が他の建材に比べ寿命が長く、建主家族にとって後世に残す存在となることを目指した。 ストック型社会において、量産化住宅でつくられた風景に対し、記憶、ルーツ、家族史から建築をつくり直す。ニュータウンの戸建て住宅の外観をもちながら、建主の記憶を出発点とし、新しい世界を切り拓く小さな変容を起こすことが、この複雑で絶えず変化する社会と家族のあり方を繋ぐひとつの解であると考えた。