IT系ベンチャー企業Ideinのオフィス移転に伴う内装計画。 もともとリモートワークを導入していた企業であったが、コロナ禍によりそれが加速し、オフィスの稼働率が1〜2割程度まで減ったことから移転する事を決めた。移転により、約500㎡あった大きな一室空間から約60㎡×3= 約180㎡(3階建ての1棟借り)となる。移転前のオフィスのようにワンフロアでみんなが集まって同じスタイルで仕事をするのではなく、オフィスという場所を何か新しいコミュニケーションの場に変えたいとの事であった。 求められた機能は、フリーアドレスの執務空間や個別ブース、商品をテストする為のラボスペース、ディスカッションの場、会議スペースなどである。従来の汎用的な合理性をもったオフィス、あるいはカフェやレンタルオフィスの空間では代替できない、自社にリアルで人が集まる可能性とその空間のつくり方を模索し、身体スケールによって作られるオフィスを考えた。 具体的には床に40cmの段差を設け、その段差によって平面計画を行う事とした。 底面は既存のデッキコンクリート現し(2階はコンクリートの上にカーペット貼り)、造作面はモルタルで仕上げ、その取り合いや縁にアールをつける事で一体化し、大地や水が作り出す地形のような雰囲気とした。 段差によって人が腰を掛けたり、ゆるやかに領域を分けたり、床が展示ブースになったりと細かな居場所や家具的な機能が生まれる。ランドスケープのような一体的な風景の中に具体的な空間をちりばめた。 1階は、既存床をなるべく残して3方向にある既存ドアとレベル差を設けず出入りできるよう計画した。まちと連続したラボスペースである。(現在ここではAIカメラとモニターが接続され、日々実験データの蓄積と確認を行っている)奥の造作床面の上に、大きな本棚・スクリーン・ミニキッチン・音響ブース等を設け、既存床面には什器をぱらぱらと並べた。什器の配置を変えれば、ラボスペースはセミナーやビアバッシュなどが行える場所となり、オフィスが一層まちとつながる事となる。 2階は、池のような形をした段差を設け、その周りにカウンターデスクや工作机など機能の違う机を配置した。池の底はカーペット仕上げとし、地面に座って足を伸ばしながら仕事をすることができる。池の縁にはクッションを設けて腰かけとしての利用を促し、池の中には高さの違うテーブルを計画し、床座としても椅子座としても使えるようにした。 3階は、会議用のテーブルの周りに一回り大きいベンチのような段差を設け、個室ブースと会議スペースを柔らかく切り分けた。大勢に対してプレゼンテーションを行う際にはこの段差をベンチとして利用する。 このように書くと3つのフロアをそれぞれの機能に合わせて計画しているようにも感じるが、どちらかと言うと建築全体のあらゆる場所を自由に使える環境として考えたオフィスである。ノートPCやタブレットを持ち歩いてお気に入りの場所を見つけたり、時間や状況に合わせて場所を変えたりしながらコミュニケーションをとることができる。 場所に縛られない職場環境が一般化しつつある現代において、オフィスの在り方も考え直す必要がある。 床面積や収容人数といった数字から計画された合理性とは別の、例えば単純に「行きたくなる」「居たくなる」といった、オフィスにおける新たな快適性について考えた。

クレジット

  • 設計
    葛島隆之建築設計事務所
  • 担当者
    葛島隆之
  • 施工
    コスモスモア
  • 撮影
    葛島隆之建築設計事務所 / 金川晋吾

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