愛知県安城市の市街化調整区域に建つ、陶芸家安藤良輔の為のアトリエ。 敷地北側に建つ既存母屋は、南端の一部屋にアトリエを持つ兼用住宅で、本計画では敷地南側の残余部分に増築を行い母屋のアトリエ機能を拡張する計画である。敷地は、前面道路も狭く建て込んでいるが、道路を挟んだ向かい側は遠くまで抜けをもつ。 建主の要望としては、ガス釜・電気釜・真空撹拌機・ポットミルなどが置けることと、シンクやシャワーブースなどの設備と作業台を設ける事であった。 母家を含めた作業工程と部屋の並び、更には母屋からまちへのつながりを考慮して、屋根によって半外部空間を取り込んだ機能配置を考えた。 具体的には、母屋アトリエの引き違いサッシを中心軸とした細長い平面の廊下を骨格とする空間構成で、作業部屋(新築)は母屋に近い位置に配置し、使用中に高温となる窯を置く部屋は分棟として外廊下で繋ぐ位置に配置した。陶芸の作業(土・粘土系の作業、石膏系の作業+釉薬の作業、焼成作業)を3つの空間に配し、母屋を含めて連続的に並べた。 このような配置計画により、視線は母屋アトリエ内の作業部屋から廊下を貫通して道路を挟んだ向こうまで抜ける。とても小さな建物の中に、長大なスケールを取り込んだ。窯部屋の前の外廊下は、駐車場までの搬入動線・焼成作業の仮置き場としても機能するだけでなく、地域に開かれた展示空間やワークショップなどのオープンスペースとしても利用できればと考えた。 窯部屋と外廊下を隔てる建具はけんどんで計画した。作業を開始する際に取り外された建具は、外廊下に並ぶコンクリートブロックに納められる事で、隣の住宅からの視線をカットするパーテーションとなり、ハイバックチェアーの背もたれとなる。そして、建築のオープン/クローズが陶芸家の作業の現われとしてまちの風景をつくる。 けんどん建具はシルバーのウレタン塗装として外壁折板との調和を図ると共に、木目を残す仕上げとした。また、ブレースやスプライスプレートなど鉄骨金物はゴールド調の錆止め塗装を施した。これらの仕上げや外壁の折板の凹凸などは、安藤による陶芸作品をモチーフとして建築の要素に取り入れたものである(※ギャラリー末尾の「施主の陶芸作品」を参照)。 住宅地の中に浮かぶ折板屋根は一見すると、この地域に多いカーポートや倉庫のようにも見える。一方で、そのプロポーションと高さは一般的な住宅地にはあまり見られない、ある種の象徴性を持った屋根でもある。建主によるこの地での陶芸作家としての活動を、控えめにそして力強く支える屋根となる事を目指した。まちといえを繋ぐ廊下の下にこのアトリエはある。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 家+小屋という選択 中部圏では東京近郊と比べ比較的土地が広い事から家に付属する小屋がよく見られる。カーポートやレジャー用品を収納する物置、農業用倉庫などがそれらにあたる。「廊下とアトリエ」の敷地周辺もそれらが立ち並び、まちの風景の一部を作っている。かつての住宅が、軒先や縁側、土間などがまちとの接点となり道沿いの風景を彩っていたように、小屋がその役目を果たせないだろうか。 以前、「Pergola」という庭づくりの為の小屋の設計依頼を受けた際に建主から言われた言葉を思い出した。メーカーに小屋の計画をお願いした所、セキュリティーや断熱性能などが過度に組み込まれた考え方がふさわしくなかった、との事だ。この事から、融通性のない現代の商品化住宅と外部との接点を強く求めるライフスタイルとの間に大きなギャップを感じた。 「廊下とアトリエ」の母屋は、前面道路から大きくセットバックし、それと似ているだろう商品化住宅である。本計画では単にアトリエとしての機能を満たすというよりは、家として完結した母屋をときほぐし、まちを含む外部との関係性を縫合する事が重要だと考えた。 現代における住宅の在り方として、家そのものについて考えるだけでなく、家+小屋からまちとのつながりについて考える事に可能性を感じている。

クレジット

  • 設計
    葛島隆之建築設計事務所
  • 担当者
    葛島隆之 / 西村亮太
  • 施工
    分離発注
  • 構造設計
    小松宏年構造設計事務所
  • 撮影
    葛島隆之建築設計事務所

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