うごく木のわ

ビルディングタイプ
その他仮設施設

DATA

CREDIT

  • 設計
    studio colife3
  • 担当者
    池内 健
  • 施工
    武田林業株式会社 / 後藤建設
  • 構造設計
    三野建築構造研究所
  • 撮影
    瀬戸内編集デザイン研究所 / SETOHEN 宮畑周平 / studio colife3

クライアントは愛媛県内子町できらない林業/森の入り口づくりをコンセプトに地域の林業の活性化を目指す地元企業。地域木材を利用した木質資源・再生エネルギーを利用、PR、啓発・教育学習するための移動ワークスペースが求められた。そこから見えてきたのは、各樹木の性質を発現する心材の魅力をどう伝えていくか?ということでした。 1.山の未利用資源・時代遅れとなった木材資源への新しい価値づけをした商品をPRする展示・ワークショップスペース。 2.林業を通じたプログラミング教育・脱炭素社会への再生エネルギー教育を行う教室。 彼らが取り上げる未利用資源は伐採から製材まで林業経営のなかで生まれる様々な木材資源にはじまり、樹種は針葉樹に限らず広葉樹や低木にも及び、フレグランスをはじめとした建材以外の活用も含んだ山の資源への新しい視点が特徴的である。そこから見えてくるのは、時代と共に変わってきた社会・文化と山との付き合い方の変化であり、その姿は脱炭素や再生エネルギー・自然循環の志向とも通じます。 ■軽トラと里山 移動させるためのエンジンの候補として軽トラックの利用をクライアントは提案されました。 理由の一つは、ゆくゆくは地域の林家さんや農家さん、アウトドアに興味がある一般層へのモバイル店舗、モバイルハウスとしての展開を見据えるためです。里山・山村で日常的に使われる軽トラックを使うことは、地域に新たな要素を差し込むことで里山の機能をアップデートすることができるという利点を持っています。 ■心材と樹木 多種多様な樹種や部位に及ぶ木材を扱う彼らの活動に対して、軸となるものはなにか?と考えたときに、「心材」というキーワードが調査のなかで浮かんできました。 樹種間の木材の違いは辺材部分では小さく、心材部分で大きい、という性質を持っています。 フレグランスの元となる香りや木材の防腐機能をはじめとした各樹種の特性を示すのは、この心材部分です。樹木が同じ植物である草本類と違い大きく成長し続けられるのも、心材のおかげです。 和室が当たり前だった時代には座敷の天井にスギの赤身無節材を貼ることが多かったが、現在ではそういった利用も廃れて一般材に混ざっていることが多くなっているそうです。武田林業ではスギの赤身無節材を地域の製材所で選り分ける仕組みをつくり、商品化することで改めて人の目に触れる機会を作ろうとしています。 武田林業にとって、ヒノキもまた重要な素材の一つです。 創業者の祖父は四面無節のヒノキの柱材を搬出する林業家であり、その意志を引き継いで会社を興し、ヒノキ成分を利用したフレグランスや消臭スプレーの商品開発をしています。心材を表現する主要な部分を、このスギの赤身無節材で、その赤を強調するように外周部に対比させるようにヒノキを使うことが決まりました。 内子小田地域は古くは天然の広葉樹林を中心とした林業地でした。今でもこの広葉樹林は小田深山と呼ばれる奥山へいくと綺麗な紅葉の名所として残っています。広葉樹の木材もまたスギ赤身無節のように行き場を失って地域に滞留している木材の一つです。スギ赤身材と色の近いサクラ材を枠に、バッテリーボックスの収納扉兼ワークショップ用テーブルの天板をケヤキで、そして木箱の外周部のあおり板との接触部にバンパーとしてクリ材を使用し、機能によって使い分け、樹種の違いを体感できるように配慮しています 木箱の内部は幅約1.1m×奥行約1.7m×天高約1.5mの小さな空間です。 内装はスギ赤身無節材を床壁面に使い、間近にせまるスギの板目の表情や香りを体感する場としています。天井はヒノキの無節材はラス板用の規格材を天井の小幅材として加工したものです。左官・湿式施工の減少、合板の普及などで使用が減っている規格品の武田林業による新たな利用法の提案商品です。ヒノキ白太の白さがスギ赤身の赤さを際立たせます。 上部の明かり取りには小田の山に自生する低木のクロモジを連子窓風に使用しています。クロモジはその強い香りから古くは神事で使われていました。時代が下り茶道では楊枝や生け垣などで使われています。武田林業は現在では未利用資源となったこの低木からフレグランスをつくることで、林家さんたちの枝打ちなどの日々の山の手入れのなかに新しいメニューを提供し、山と街とのつながりを強めています。 ■自然循環 再生エネルギー教育 ワークショップ 内子町は脱炭素戦略を策定しバイオマス発電をはじめとして再生エネルギーの活用に力を入れています。 この動く木箱は再生エネルギー普及のための啓蒙活動にも使われます。屋根には太陽光パネルを搭載して移動時も発電を行い、運転席上部に設けたバッテリーボックス内に蓄電していきます。貯えられたエネルギーは再生エネルギーワークショップでの照明やドローンやロボットの動力として利用され、再生エネルギーと生活、林業との関係を学ぶことができます。 ワークショップ、PR活動時には木箱本体に幌を取り付け、周囲に軒下空間を拡張し、持ち込んだ組立て式の家具を天幕の下で展開可能としています。幌は捻り金物で簡易に脱着可能とし、組立て式のテーブルの天板をバッテリーボックスの扉と兼用とするなど、省スペース化・設営の時間短縮へ配慮しています。 自然循環のなかでの資源の作り方と同時に、資源の使い方も再生エネルギー教育においては重要です。木材はその点で身近でリアリティをもった教材となります。樹木は山でその生命を終えた後、分解するまでに数十年かかると言われています。私たちはそれ以上にゆっくりと木材を使っていかなければなりません。木箱では片面の鎧貼りとすることで風雨への耐候性を高め、仕様の特徴を比較できるようにしています。鎧貼りは内子小田地域の蔵の外壁に使われる知恵でもあります。 日本の林業は江戸時代以来、植林を行い、世界的に見ても優れて持続可能な山との付き合い方を模索し続けてきました。しかし高度成長期以後は木材資源を外材に依存し、生産地/山 と消費地/まち のつながりは薄れてしまいました。時代・環境の変化とともに、山がまちに求めることも、まちが山に求められる機能も変わってきています。改めて相互理解を深めるときにきています。 山で待っているだけではモノゴトは動き出さない。里山の脚である軽トラックが、山の木箱を載せて、まちへと向かう。「うごく木のわ」をまわすために。 (H.P.より抜粋)

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