PROJECT MEMBER
「僕らの家」は、20坪以下の小さな家であり、僕と妻=夫婦二人の自邸である。 僕らの共通認識は、家は人生の全てではなく、旅行に行ったり、美味しいものを食べたり、欲しいものを手に入れたり、植物を育てたり、たくさんのことを叶えたいということであり、身丈に合った家、かつ、間取りを含めシンプルで暮らしやすい家を基本計画に掲げ、動線を明確化・単純化し、生活に必要なスペースと建築コストを<最小>に抑え、小さな家でありながらしっかりと心と体が休まることと豊かに暮らせることを<最大>に引き出す空間を目指した。 その結果、可能な限り間仕切り壁を排除したワンルームと言う答えに辿り着き、そこに“僕ららしさ”をプラスしたのが「僕らの家」である。 計画当初から妻と二人で「ワンルーム、庭(植物)、ロフト、趣味、家具、造作、材料」などのキーワードを出し合い、そのすべてが僕らの要望であり、 “僕ららしさ”と考えている。 敷地は、赤城山を南下した関東平野にある住宅地の一角で、南側には通勤時に交通量が多少増加する市道と西側に分譲地用の位置指定道路がある。日当たりの良い南側道路に沿って全面に庭を配置したシンプルな配置計画とし、僕らの最大の癒しのひとつである自然(植物・草花・太陽光・風・空)をどこにいても感じられるよう、その庭に面して建物南面を全面開口部として計画している。食事をしながら、料理をしながら、洗濯をしながら、入浴しながら、また、ロフトから見下ろしたりと様々な方法で庭を楽しむことが出来る。 壁いっぱいに設けた南面の開口部は、床からの有効高さを1.78m程に抑え木製サッシの重心を落とし、空よりも地に近づけることで、より庭を印象付けると共に、どっしりと構えることで安定感を増し、気持ちを落ち着かせ居心地のよい空間となった。また、上部に真っ白な余白が出来ることで、面としてのバランスがよくなり、将来的には妻の油絵を飾ることを計画している。 同時に、春夏秋冬の日射を検討し、夏は室内にほぼ日射はなく冬はLDK中央の柱まで太陽光が差し込む高さでもあり、パッシブデザインを取り入れることにより、縦スリットの木製フェンスから建物内部を通り抜ける風や、植物を介して差し込む光が、豊かさを増幅させている。 20坪以下のワンルームの戸建て住宅と言うのも特殊ではあるが、小さな家を<最大>に感じられるアイデアとして、ロフトを採用し、LDKとロフトの天井高さを揃え、天井全面に45x175の木材を連続させた。最高天井高さは3.7m程となる。一方、キッチンの一部やベッドスペースの天井高さは必要最低限に抑え、メリハリをつけることでお互いを引き立て合い、天井の低いベッドルームは安心感が増し、天井の高いLDKは開口部も手伝って解放感に包まれる。 また、レベルの異なるキッチンとロフトを対面させ45度に振り南面に向かって開き、その先に庭が広がる。 このような様々なアイデアにより空間の縦軸方向にも横軸方向にも広がりを与えられるよう計画している。 ロフトは天井高さ1.4m以下とし、面積と階数は不算入となる。主に趣味スペースと収納スペースに分け、LDKに面する北東面のロフトでは、油絵や編物、刺繍、読書や昼寝など趣味を楽しむスペースとしている。この上に小屋裏の層があるため、夏季でも涼しく過ごせ、ゲストスペースとして寝泊りも可能となる。 今回の計画では、キッチン・バスルーム・洗面スペース・家具・建具・アルミ庇など、ほどんどを造作とし、また、仕上げ材料も木材をはじめ、日本伝統の本漆喰や海外の左官材、上下共にレールが見えないアウトセット金物などを採用し、職人技が感じられる他にはない唯一のものたちに囲まれている。