大分県大分市に建つ築37年の分譲マンションの一室の改修計画である。夫婦と猫3匹が快適に暮らすため設計者の自邸として計画された。北側傾斜の敷地を造成して建てられた5階建て壁式鉄筋コンクリート構造のマンションは、北側に大分市中心市街地、南側に上野丘の森を望む立地である。 4階の一室の解体を自身で行う際に、南北に景色が抜けて心地よい風も抜けていくことに気が付き、この風を活かすことを計画の主軸とした。 計画においては妻の仕事場を設ける必要があった。そのため中央に角度を45°振った箱を配置し、仕事場と居住空間を緩やかに分けている。斜めの箱は風を受け流しながら、視線を通さない機能を持たせている。この箱を起点に高さを抑えた箱の家具を複数配置し、猫たちの運動を促すために立体的な構成とした。 さらに無断熱のRC造ゆえに温熱環境の改善を試みている。外部に面する壁・天井には断熱材を設け、既存サッシには内窓を設置した(南側サッシ2箇所は将来DIY予定)。熱を通しやすい防火鋼製建具の玄関ドアは風除室として閉じることで、熱が仕事場へ伝わらないようにした。 また、解体だけではなくシナランバーの家具、壁・天井・木部の塗装、一輪挿しの花器など設計者自らが手を動かしながらつくっている。リノベーションにおいては対象の室内は、新築の敷地と同義であり、解体を自ら行うことは敷地を読み取ることに似ている。机上の設計だけではなく、手を動かすことで空間の掌握ができたと感じている。 世帯数よりも遥かに多い住戸数がストックされる現社会において、リノベーションは社会問題の解決の手法である。表面を新しくするだけではなく、空間のアップグレードを行うことが重要となる。本改修計画においては、空間の魅力的な特徴を増幅させ、温熱環境を改善させ、DIYにより継続されるアップグレードの可能性を残している。次の時代に空間を繋げ、暮らしを楽しむ住居空間として完成した。
チーム
メンバー
クレジット
- 撮影
- 原大地ケンチク設計室
- 設計
- 室宏アトリエ
- 担当者
- 室宏
- 施工
- 株式会社是永ホーム
- テキスト
- 伊藤憲吾建築設計事務所
データ
- ビルディングタイプ
- 共同住宅・集合住宅・寮
- 工事種別
- リノベーション
- 延べ床面積
- 65.34㎡
- 竣工
- 2024-07