
PROJECT MEMBER
小屋群がつくる周辺との関係 一色海岸から徒歩3分の奥まった私道に面した別荘。このエリアは、江戸時代まで漁村だったが、明治以降、御用邸をはじめ、宮家や要人の別荘が建てられ始めた。この敷地は桂太郎別邸長雲閣の一角だったが、戦後細分化されて、漁村の名残の狭い小道に面して住宅が建ち並ぶ街並みとなった。南北に接する隣地はひな壇状で、北側からは見下ろされる位置関係にある。 この別荘ではプールが計画されたため、北側や東側に対して建物ヴォリュームを建てて、プライバシーを確保するように検討した。隣接する住宅に威圧感を与えないように分棟とし、ダイニング棟、リビング棟、宿泊棟、駐車場と浴室のあるサービス棟、倉庫棟の5つの棟がプールのある中庭を取り囲み南の海側に開いた構成とした。各棟の高さは基本的には内部の機能に合わせているが、それぞれの屋根の勾配を調整して、周辺建物との関係を構築した。北西の住宅の庭への採光を配慮し、ダイニング棟は敷地境界に向けて建物高さを抑えた片流れの屋根を設け、敷地境界に迫っている北東の3階建ての住宅に対しては、プールのプライバシーと隣地から海への眺望を両立する急勾配の屋根を設けた。東側の別荘は海への眺望を直接持っているので、お互いのプライバシーを確保するために宿泊棟は2階建とし、心地よい木陰をプールサイドに落としてくれる、日露戦争の戦勝祝いに植えられたというクスノキが生育しやすいように、中庭側に下がる片流れの屋根とした。 それぞれの棟の隙間は、プールサイドの中庭から周縁部に抜ける動線で、海陸風と光の通り道にもなっている。分散した建物を緩やかに繋ぐ役目を果たしているのは、溶融亜鉛メッキで仕上げたルーバーのパーゴラで、ダイニング棟の南側のデッキを覆って環境調整するだけでなく、トップライトの日除けとして各建物の隙間に入り込んでいる。 設計当初の簡単な小屋を建てたいというクライアントの意向と、周辺環境に配慮して、設計過程で機能が増えて別荘の規模が大きくなってきても、小屋が集まる構成にしたことで、一色の景色に馴染む小さな集落のような佇まいになった。