
補足資料

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PROJECT MEMBER
「変わりゆくものと変わらないもの」 淡路島北部の再開発が進む海沿いの土地に計画されたドッグラン付きの貸別荘の計画。 近年、急激に進む再開発によりエンターテインメント性の高いテーマパーク的施設が次々と姿を現している。(計画着手時には敷地前あった倉庫も竣工時にはその姿を消した。) そんな不確実で不確定な風景と時代の変化に対して一方的に拒絶するでも、無批判に受け入れるでもない、「曖昧な両義性」を含む向き合い方を試みた。 敷地は淡路島北部特有の地形を反映しており、海から山までが極めて短い距離で接続されているため、平地は限られ、住宅は密集し、道路と宅地も極めて近接している。歩道がなく、車の往来も多い道路環境はこの場所の生活様式そのものを象徴している。 そこで基本構成は中庭(ドッグラン)を中心としたコートハウス型を採用し、建築が前面道路の騒音や近隣住居の視線から中庭を守る役割を果たす。一方で、街の変化を引き受ける意図から、前面道路側にも可能な限り大きな開口部を設けた。この開口は建築の「厚み」を通して外の現実を静かに内へ引き込み、曖昧な境界を介して互いの存在を薄膜越しに感じさせる装置として機能する。 全体の構成は、人と犬の動線に寄り添いながら、大小や高さの異なる部屋が連続的に繋がるような数珠状のかたちをとっている。内部はスキップフロアを採用し、緩やかな段差が視覚的・空間的に領域を分節することで、人と犬が壁に隔てられることなく自然に共存できる環境を形づくっている。また、最も高い床の下部には地域の食材を提供する販売店を設ける予定で、建築に外向きの機能を持たせることで、地域との直接的なつながりを生み出すことを意図している。 中庭にはスキップフロアの段差に呼応した緩やかな丘を作り、内外を通した回遊動線を形成している。また室内から中庭へと移動する動線には、時間の流れに応答する 2つのテラスが挿入されており、北向きのテラスでは日陰から明るく穏やかな中庭や遠景を眺め、南向きのテラスでは食後や入浴後に星空を見上げることができる。これらの場所は、建物の高低差によって周囲の視界を遮りながらも、風や光を取り込み、周辺環境対する「間(あわい)」を形成している。 外観は、地域に点在する瓦の釉薬、杉板のベンガラ塗装、倉庫や駐輪場のガルバリウム鋼板といった要素を参照しながら、赤褐色のトーンで統一し、地域の風景にそっと溶け込みながら、同時に新しい位相を付加する存在を目指した。 急速に変わりゆく時代に対しても、風や光や星空といった変わらないものに対しても、それぞれの距離感で繋がっている。そんな日和見的な態度だからこそ、時間や自然のわずかな揺らぎと響き合いながら、「いまここ」で寛ぐことができる。