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寛閑観は滋賀県近江八幡にある、ブランド牛「近江牛」をメインにした和牛専門レストランの新築計画です。 寛閑観は意味を持つ漢字3文字の組み合わせで、「長閑な風景を観ながら、地元の美味しいお肉と料理を堪能して寛いでいただきたい」というクライアントの想いが込められています。 近江八幡という地域は、琵琶湖の近くの自然豊かな土地で、田園が広がる長閑な風景が魅力的な場所です。また、近江八幡は歴史の上でも重要な場所で、古くから続く火祭りが行われたり、三二酸化鉄で赤く染めた赤こんにゃくという伝統の郷土料理があります。このレストランの料理も火をテーマにしており、薪火焼きの牛肉料理が自慢です。 クライアントは昔から地元の人々に愛されてきたレストランを経営してきましたが、急遽新しい店を建てることが必要になったため、予算が少なく工期も短いという厳しい状況のなかで最善の方法を検討することになりました。近江八幡という地域の良さを最大限に生かしたレストランにするため、この場所ならではのアイデンティティと、自然素材を効果的に使ったオリジナリティのある建築と空間をデザインすることが必要でした。そこで、この地域で昔から使われてきた赤色の天然染料のベンガラや石をアクセントにして、空間全体としてはシンプルなデザインにまとめることにしました。 「ベンガラ」は、木材の防腐剤として古くから使われてきました。1階の客席の一部にあるオープンキッチンに設置した薪窯の上部の鉄板や薪をイメージした天井の木組には、このベンガラを塗り赤くすることでテーマの火を表現し、空間のアクセントにしました。ベンガラはこの店で働く従業員の方も含めたクライアントと私たちで一緒に塗りました。その理由は、この地域に住む人にも馴染みがなくなりつつあるため、まずはクライアントにこの伝統的な手法と材料を知り、体験してもらいたかったからです。自分達の店作りに参加することで店への愛着も増し、お客さんとの会話でベンガラやこの地域の伝統について自分の体験として説明することができます。ベンガラは通常屋外の木材に使われてきましたが、他の素材に塗る実験をした際に、鉄に塗ると鉄の成分と天然のベンガラが反応することにより所々に自然な色むらのグラデーションが現れ、テーマである火の表情を表現できると感じ、鉄部にもベンガラを塗ることにしました。 また、このレストランの料理のコンセプトである火を視覚的にも楽しんでもらうために、1階の客席からはオープンキッチンの薪窯で調理する様子を見ることができます。また、この店の石焼料理で使われている火山岩を客席の一部の壁にも使用しました。1階の奥には特別な個室があり、シェフが目の前で料理をします。この調理カウンターとレジカウンターは天然石でできており、カウンターに使用している石材は1つ1つ実物を見て自分達で選び、伝統的な石垣を積む技術を応用した設計にしました。また、2階は高い目線で眺望を楽しむことができ、大小の個室があるのでパーティーもでき、様々な場面でお客様に楽しんでいただくことができます。 建物の外観は周辺の田園に馴染むように土地に根ざした土や石をイメージさせる素材にしました。また、素材感を強調するためにフォルムは極力シンプルにしました。また、ファサードを意図的に閉鎖的にしたことで、建物に入ると大きな窓から風景が目に飛び込んできます。目の前に広がる田園風景や遠くにそびえる山々や美しい空といった素晴らしい景色を全ての客席から見えるように設計しました。外構の計画にも参加し、レストランの料理で使うハーブやスパイスを植えて育ててもらうことで、収穫して将来料理に使ってもらえるように提案しました。 この店は料理だけではなく、地域の景色と地元産の食材を合わせて楽しんでいただけるような店にすることで、観光の拠点の1つとなることを目指しています。そして、国内外からたくさんの人々に訪れてもらえる店になることで地元の活性化に繋げたいと考えています。昔から使われてきた天然素材を使い地域の特色を出しながらも、新鮮な素材の表情も感じることができる空間にすることで、クライアントの想いに寄り添う店を目指しました。