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補足資料
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PROJECT MEMBER
山陰地方の雄山・大山を望む島根県安来市柿谷町。白鳥飛来地としても知られるこの地は、島根・鳥取両県の結節点として位置し、小高い山々とその間に広がる田畑に囲まれた豊かな自然のなかに集落が点在しています。近海から水揚げされる新鮮な海の幸と、周辺田畑から採れる山の幸など多様な食材に恵まれる一方、神話の舞台としても知られる、歴史・文化・ものづくりの伝統が息づく多くのポテンシャルを秘めた地域でもあります。 クライアントは、フローリング床材を中心とした木質系建材の開発販売を主要事業とするアトムカンパニー社。コロナ禍における来客数の減少・リモートワークの普及など社会情勢の大きな変化を機に、対面営業だけに捉われない業態転換を図ることを視野に新しい事業のあり方を模索する中で、取得した古民家をどのように活用するかが課題とされていました。要望は2点。 ①従来型の商品(モノ)を提供する販売形態から、具体的な住まい方(コト)を提案・体験してもらうことを目的として、実際の空間体験やVR体験によって、住機能を有したトータルな共有体験型ショールームをつくる。 ②豊かな自然・歴史・文化に恵まれた周辺環境を最大限に活かし、空き家問題が進む地域課題の解決事例として、空き家をリノベーション活用することで、自社で取扱う木質系建材を使った空間を人々が集う場としても提供し、将来的に地域産業振興と情報発信の拠点とする。 既存建物は、初期竣工年不明の木造2階建て古民家。急階段を登った小高い丘の上に建ち、眼下に広がる田んぼと、この地を代表する大山を遠方に望むことができます。その一方、過去幾度にもわたり増改築を繰り返してきたため、平面構成的にも断面構成的にも、いくえにもレイヤが重なった結果、空間が細分化され採光や換気に困難な部分が多く生じていましたが、その一方で、建物東側の旧玄関から台所をへて建物西側には旧味噌小屋があり、廊下で分節されているものの東西軸となりうる構成要素も有していました。そこで、この部分を平面的・断面的に一体化した大空間とすることで、建物における東西・南北・垂直方向の基軸に据え、採光・換気・動線の流れを確保するとともに、ショールーム機能と人々を迎え集う拠点機能の中心とすることを計画しました。同時に、不揃いであった各通り芯を整理しそれに合わせて間仕切り開口部と壁を適宜再配置することで、耐震補強壁の設置と各部屋への分かりやすいアクセス、自然換気の経路を確保しています。 エントランスを兼ねた土間ホールは、既存土間レベルで一続きとすることで土足でそのまま出入りすることができ、建物内部への導入と各エリアへの誘導役割を担う一方、建具を開放すれば、東側の外部エントランス空間と将来整備予定の西側茶室までが内外一繋がりとなり、6m長の大テーブルを中心に多くの人を受け入れる機能も持っています。その土間ホールを起点に、南側には宿泊可能なプライベートな住機能を持ったゲストルーム、北側にはパブリックに活用できる展示機能を持ったギャラリー廊下とサウナ施設、階段を上がった2階には大山を眺めながら多目的に活用できる小屋裏空間と事務所機能が配されています。各エリアは、アトムカンパニーで取扱うフローリングが貼り分けられ、自社建材を使った建具・家具・デッキが広がり、具体的空間をゆったりと回遊しながら体験・体感してもらうことでその良さを実感できるようになっています。 住空間・ショールーム・ワークスペース機能としてのみならず、顧客はもちろん地域住民・地元企業・国内外来訪者・参画企業等、老若男女国籍問わず多くの人々が、この場を通して、枠を超えて集い繋がり合うことを目指しています。何より、自らオープンキッチンで調理した地元の海の幸・山の幸を酒の肴に、ユラユラと燃える薪ストーブの炎の暖かさを肌で感じながら、奏でられるピアノの音に耳を傾けつつ、心ゆくまで美味しいお酒と食材を堪能すれば、自ずと人々が集い・語らい・笑い合い、気づけばここ安来の地に「心安平くなりぬ」ことを願っています。