PROJECT MEMBER
わずか14㎡のカウンターのみで構成されたイタリアン料理店の計画。 計画地は名古屋市の四間道円頓寺。近年、このエリアは土蔵や古い町屋の改装が進み、街並み保存地区として注目を浴びている。 店主からの要望は、「自宅で大切な人をおもてなしをするように、ゆったりとくつろげる空間を提供したい」というものであり、さらに「お客様と会話をしながら、目の前でできたての料理を提供したい」という点も重要視された。 席数は7席に設定されており、決して多くはないが、その少なさがかえって特別な空間へ招かれたという印象を強くする。 格子の扉を開けると、季節の草木をあしらった美しい設えが出迎え、さらに奥のドアを開けると、ほんのりと店内が見える「間」がある。この「間」が、路地の向こうに店があるかのようなイメージを引き立て、これから過ごす時間への期待を一層高める。 店内は元々吹き抜けと梁が特徴的な空間だったが、その高い天井を活かしつつ、客席の天井は意図的に低く設定されている。吹き抜けの空間は奥行き感と陰影を生み出し、対して客席では落ち着いて食事を楽しむための居心地の良さを提供している。 席に着くと、店主の動きがまるで手に取るように感じられるほど近い距離感となる。店主の背景には機能を持たないモノクロの壁が設けられ、その動きはもちろん、料理が皿に盛られていく様子が一層際立つ。客席と厨房の距離が非常に近いため、仕込み作業を含む主な厨房機能はすべてカウンター下に集約され、厨房の裏側が見えることはない。 カウンターテーブルには5mのトチの無垢板が使用されており、木の繊維の一部に着色や節が見られる。本来ならば欠点とされるところを自然な美しさと力強さを感じさせる、唯一無二の繊細で豊かな雰囲気を生み出している。入口に使われたパネルも同様に、自然な木目を活かしたデザインとなっている。 自然の持つ繊細な表情と、店主が厳選した皿、さらにその上に盛られた料理が共鳴し合い、洗練された空間に一種の緊張感を与える。それでも、店主との会話が心地よく、まるで自宅に招かれたような、温かい感覚を呼び起こす。