光を纏う部屋

ビルディングタイプ
共同住宅・集合住宅・寮

補足資料

平面図
図面
既存平面図
図面
断面ダイアグラム
ダイアグラム
コンセプトドローイング
コンセプトイメージ

DATA

CREDIT

  • 撮影
    中村晃
  • 設計
    和順 陽 + 和順 菜々子
  • 施工
    株式会社シグマテック

「ぼかす」  東京都世田谷区に位置する築45年・専有面積約53㎡の中古マンション住戸のリノベーションで、建築設計者とテキスタイルデザイナーの夫婦が住まう自邸の計画である。  3面採光かつ最上階の明るい部屋だった。しかし、ほとんどの窓には近隣の視線を遮断する型板ガラスが使われており、景観の享受は期待できなかった。そこで考えたのが、乳半アクリルのように光を拡散するカーテンで外周部をぐるりと覆うことを発端とした、空間の要素を「ぼかす」というアイデアだ。 ●カーテンで既存ノイズ(梁型、サッシ)と光をぼかす  市販のナイロン生地で製作した白いカーテンは半透明で背後のものは見えないが、光をやわらかく透過しぼかして拡散する。梁型の出っぱり、古びたアルミサッシ、ポツ窓のレイアウト、中古マンションの冴えない部屋たらしめる要素はすべてカーテンで隠した。カーテンを梁の手前に設け窓との距離を離すことで、外光が拡散されぼんやりとした光が生まれた。この操作により内外の関係や建築的な要素がぼかされ、曖昧で抽象的なインテリアとなった。 ●カーテンの照明化によりやわらかい光で空間を包む  カーテン裏上部にライン照明を設け、夜はカーテンが纏うやわらかい光によって部屋が包まれるようにした。ナイロン製の生地の特性により光が拡散されるため、影をつくらず空間全体を均質に照らすことが可能である。照明は自動タイマー制御により照度と色温度をコントロールできる仕様とし、サーカディアンリズムに合わせた身体にやさしい光環境を実現した。 ●建具の代わりにファブリックでゆるやかに仕切る  間取りは3面採光を活かしてほぼワンルームの構成とし、明るい空間とした。最低限の間仕切りには建築的な要素である“かたい”建具を使用せず、より有機的で“やわらかい”ファブリックを採用することで、空間を曖昧に仕切ると共に肌なじみのよい設えとした。ファブリックによる間仕切りは機能に応じて素材、色、透過度を使い分け、インテリアのアクセントとなるよう計画した。 ●キッチン・収納・家具を抽象化する  インテリアのベースとなる色彩は明るくニュートラルなトーンを基調とした。その上で、居住機能上必要なキッチンや収納は、空間のアイストップとなるカラフルで抽象的なボリュームとして表現し、オブジェとして感じられるようなポジティブな要素に変換した。設計者がDIYで製作したテラゾーテーブルは、キッチンのグリーン、クローゼットのレモンイエロー、ファブリックのレッドとブルーの各色を取り入れ、部屋のアイコン的存在とした。  築45年の住戸の有り様に向き合い、自邸として心地よく過ごせる空間を求めて辿り着いたこれらの工夫は、環境的な要素/建築的な要素/生活感のある要素を抽象化する行為である。  さらには、外周部に設けたぼんやりと光るカーテンにより部屋の境界は曖昧になり、空間の奥行きが消失し、浮遊感が生まれ、やわらかくあたたかい空気に包まれているような雰囲気で空間が満たされた。この空間に身を置くと、主役は建築ではなくその場に漂う心地よい空気感、すなわちアトモスフィアであることを実感できるであろう。

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