【大きな空間はそれだけで魅力的である】 それは単純にスペースとして、ということもあるがそれ以上に余白の余らせ方には 豊かさや美意識なども反映される。 そういった目に見えてこない部分や未来に対しても意識的になり設計することが大事だと思っている。 今回、マスキングテープ専門店の移転計画をした。移転先は、築40年の元スーパーマーケットの建物である。 設計にあたりマスキングテープ店として成り立たせることは勿論だが、元スーパーという空間構成や 空間の大きさを最大限に活かし、次へのアクションのきっかけになる様な店づくりの手伝いをしたいと思った。 オーナーは様々なイベントを主催したりと地域の中で精力的に活動している方で 今後は更に視野を広げ、拠点としての店舗を考えていた。 建築は必然的にその人の概念や思想を表すし そのような空気感が滲み出ている建物に僕は魅力を感じる。 工事にあたりまず着手したことは、度重なる改装で重ねられた仕上げ材を剥がし、壁・天井を解体することで 当初のスーパーの状態に戻すことだった。 ただでさえ面積が大きい店内がさらに広くなったわけだが 壁を撤去したことで、隠れていた鮮魚や青果・精肉、バックヤードなどの各諸室が現れ、光が回り、風が通り抜ける一体的な空間に建物全体がなった。 元々スーパーという空間の面白さの一つに広い売場を回遊しながら商品を探し、活気ある様々なコーナーを回っていく構成がある。 そして、広くなりすぎてしまった店内の中心に新たに壁を建てた。 この壁は端部がR形状の独立壁である。光や意識が後ろに回り、壁の両側はカーテンで仕切ることができる。 店舗面積を区切ると同時に、全体の空間の循環や回遊性の起点となるような存在を目指した。 建物奥の元精肉コーナーの小部屋では現在、写真展が行われている。今後も隣のスペースではアートの展示が予定されているようだ。 週末には入り口付近の広場スペースで子供向けのワークショックやコーヒースタンドの出店もある。 大きな空間の中でゆったり回遊しながら小さなマスキングテープに出会ってほしい。 この元スーパーは私自身も幼い頃、母親に連れられ度々行った店である。 当時はスーパーながら本や文具コーナーなども充実していて、子供ながらに楽しめる居場所であったと記憶している。 単に食材だけを買う場所ではなかった。 今回の移転をきっかけに、もう一度この場所が地域に愛され気軽に立ち寄れる【場】になればと思い設計をした。

クレジット

  • 設計
    町秋人建築設計事務所
  • 担当者
    町秋人
  • 施工
    建日庵
  • 撮影
    良知慎也

データ