
繋がりのある構え 私たちは建築を計画するときに、敷地・機能・予算などの「与条件」を絶対的なものと考えてすぐに設計に取り掛かるのではなく、「何が一番重要なのか?」「このプロジェクトでしかできないことは何か?」を再考することによって隠れたプログラム、新たなプログラムを提案したいと考えている。 今回については治療を支える病院の建築としての役割について再考した。 一般的に連想される新建材でまとめられたハコモノ建築は自然の色彩や素材感に乏しい空間となりがちである。特に医院建築は機能や効率を優先するあまり人工的な材料に覆われ、人としての日常感覚から遠ざかりつつある。 名古屋市北区金城町は店舗・工場・住宅が混在し、比較的建物の密度が高く、無機質な塊のような建物が多い街並みである為、革新的で土着的な考えで建築をつくるべきだと思っていた。この考えは、クライアントとも共通の想いであったため、木の温もりを感じる建物をコンセプトとすることにした。これは単に木造にしたいということではなく、機能や法規を満たし、木を感じる空間によって患者を癒す場になって欲しいという願いであった。 本件の計画にあたり、今まで50件程クリニックを設計してきた経験をふまえて、機能や効率を満たしつつ、「地域に開かれた医院建築」とする為に以下の3つのデザインストラテジーを立てた。 ①街との調和と連携を計る大きな庇 木質の大きな庇は、天候に配慮された患者のアプローチ空間としてだけではなく、外に居ても守られている縁側のような空間をつくり地域コミュニティの場となる。また、大きな庇をつくることで南東面での日射遮蔽を図るパッシブデザインとする。 ②地域と繋がるL字の吹き抜け空間 透明性が低いと社会に対して閉鎖的な雰囲気となるため、屋内においては道路に沿ってL字の吹抜けを計画することで、陽だまりと開放感を感じさせ視線の抜けによって、クリニック機能と社会とをシームレスにつなぐためのバッファーゾーンとして待合スペースを設けた。こうすることで社会との接点となり、地域と繋がる構えとする。 ③温もりのある透明性 病院という建物こそ患者や医療従事者がストレスを感じず、より快適な環境作りへの配慮が必要と考える。診察室などの機能性を重視した部屋には、抗菌性の優れた素材と木の素材を組み合わせて使用し、患者が多く滞在する待合などには木の素材をふんだんに使い落ち着きのある空間とし、ガラス面から木の温もりを街へと表出させる。 建物の骨格となる3つのデザインストラテジーを成立させるために構造計画においても検討を重ねた。 大きな庇と水平梁を無くした開放的なL字の吹抜けを成立させるため、構造はブレース付き鉄骨造とした。吹抜け上部の立体トラスは重要な役割を担っている。 エントランス部が建物南東の角にあり、そこを起点に2 階がL型に吹き抜けており、開放感のある計画となっている。吹き抜けに面する2 階外壁ガラス面に大胆なトラスを設け、街へのつながりを表明する効果を期待したい、という計画である。 1階大庇の元端側は開放的なL字の吹抜けを計画するため、吹抜け空間内に横架材を設けずに庇の垂れを防止する方法を検討した。と同時にL字の吹抜けの外壁側は先で述べたようにトラスで構成されているため鉛直材が無い。そのことからエントランス吹き抜けの開放感を損なわず庇を引張上げ、R階荷重を負担できるように筋交いのような圧縮ブレースを立体的に設けている。また、露出する南東面2階ブレ-スの圧縮材はCT-150x75x7x10の2丁合わせ、引張材はFB-65x6、庇の垂れ止めの筋交いはCT-150x75x7x10の2丁合わせとした。意匠的な配慮からブレースに木部材を抱き合わせることで、利用者に木のやすらぎを感じてもらえる空間とした。 「庇」・「吹抜」という ありふれた「建築用法」を再解釈し、拡張しつつ「木材」という 身近な素材でつくることによって、患者も医療従事者も心を落ち着かせ前向きな気持ちで過ごせる「温もりのある透明性」を持ったクリニックを実現しようとした。 地域医療の窓口を担う診療所こそ地域と繋がり、より快適な環境をつくりたいと考えた。