本計画は1970年代後半に建てられた、ほぼ断熱性のないRC造・打ち放しの住宅の改修である。現代においては過酷とも言える住環境であり、また周辺環境も時間の経過と共に大きく変化して、周囲から硬く閉ざした存在になっていた。 このプロジェクトのテーマは境界の変容である。境界を指す語として boundaryとborder があるが、前者は2つの領域の関係性を断ち切ってしまう硬く切断的な境界を意味し、後者はお互いの領域がやわらかく曖昧に溶け合うような境界を意味している。RC造打ち放しのboundaryな境界に対して、我々はborder hat と呼ぶ新たな外皮を被せることで、既存外壁の周囲に動的な境界空間をつくりだした。 この建築が建っているのは工業団地の跡地で、周囲には疎らに住宅の建っているくらいの場所だった。それが約40年を経て、北側に市民ホールと隣接した緑道、西側には公園が出来て、5人家族で暮らしていた頃に南面に建てた離れは解体し、庭は明るさを取り戻した。各方角それぞれに異なる形状の庇をもったborder hatを被せることで、周辺に対してそれぞれの面で応答する構え直しを行った。 各面で異なる形状の庇は、それぞれ片流れ・ボールト・切妻となっており、軒下は勾配の変化が動線としての抑揚を生み出している。GLから少し上げた土間とともに、敷地外周部の風景を取り込んだシークエンスのある軒下空間となっている。以前は敷地内を分断していた袖壁などを撤去し、外構の回遊性と周辺環境との連続性をつくりだしている。 border hatは敷地をこえて地域の気候環境との関係性ももたらしている。具体的には、サンルーム内の軒天に設けたガラリが、躯体とborder hatの間の50ミリ厚の通気層を通して2階の厚みのある窓に繋がっており、互いの建具の開閉を通じて空気の流れや熱の動きをコントロールしている。季節に応じた建具の扱い方によって、空気と熱の動かし方を身につけ、現代の高気密高断熱化し機械制御した快適性とは異なる、地域性と身体性を伴いながら温熱環境を自らの手でコントロールする住まい方を提示している。 境界が1つの空間として人の動きや風・光・熱などの環境因子といった様々な要素が、動き交錯し介在し現象を呼び込む場所となることで、硬く閉ざした境界面を柔らかく動的なインタースペースとしての境界へと変換した。そのような境界の在り方は、切断的な境界が増殖している現代における、建築的な解法の一つとなりえ考えている。